第4話 凍結を超えたら其処はお城だった

 気付いたらそこは、窓がなく壁や床が石で出来ていて飾り気がなく、そして天井の高い大きな部屋で、床には魔法陣が彫られている場所だった。


 女神に時間凍結されたと思ったら即ここにいた訳だ、ほんとに一瞬なんだな。


 女神が言うには神に会って異世界に送られた事以外の記憶は曖昧にして送るルールらしいが、俺は後付けのスキルオーブの事もあるんで記憶を弄られてないらしい。


 まぁ女神との会話内容とかは黙っててねーと念押しされている。

 そりゃ、あんなのが神様のトップだと知られたら信仰に疑問とか持たれそうだしな。


 取り敢えず〈隠蔽〉スキルで〈隠蔽〉スキルを隠しておく。


 それ以外は……あー〈生活魔法〉以外のスキルはそれぞれ距離を感じるなぁ。

 弱いスキルは近く、強いスキルは遠くといった風に、スキルを覚えたら上がっているはずの基礎能力も反映されてなくて駄目っぽい。

 という事は、俺の日本で覚えたスキル群がこの世界に馴染むまではヨワヨワなので気をつけよう。


 周りを見てみると魔法陣の中に艶のない学生服っぽいやつらが四十人ちょい? くらいいた。

 服に艶がないのは科学繊維じゃない物に変換されたからかね?


 男子が学ラン女子がセーラー服なんだが、女子が厚手のタイツを履いてたり、カーディガンとかも羽織っているし、冬服っぽいねぇ。


 それとその集団の側に、一人偉そうに周りを見ている短パンTシャツでサンダル履き姿の若い男が一人と、教師であろうロングコートを着た二十代半ばに見える女性が一人いる。


 そして最後にフード付きハーフコートを着ている俺で全員だ。


 盗人は魂にして記憶を消して使うとか女神が言ってたっけ……、って一人だけ夏に飛ばされたんだろうなぁ、あの服装だし。


 石の部屋は涼しいが周りにいる異世界側の服装を見てみると薄めなんだよな、女神に季節とか聞くの忘れてた。


 魔法陣の周りには武装した兵士がずらっと並び、そして魔法使いっぽい奴らと貴族っぽい豪華な服装の中年男性、それと質の良さそうなドレス姿の女の子に、神官服っぽい奴らも結構いるな、あれが女神教会だろうか?


 その中にいた豪華な服を着た貴族っぽいオッサンが話を始める。


「よくぞまいられた女神に祝福されし異世界の方……方々よ?」


 どうやらこの人数は予想してなかったらしい。


「ごほんっ、貴方達は我らが国の召喚に応えてくれた訳だが――」

「応えてなんていやしねーよ! なんだここは? おっさんらは何者なんだよ! 俺はクソ女神に勝手に送られただけだ、俺らを元の世界に返しやがれ!」


 学生服を着て髪を茶髪に染めてピアスをつけている、不良っぽい奴が怒鳴り声を上げ始めた。

 そいつの仲間なのだろうか、似たような服装をしている二人ほどの学生も同調して騒ぎ始める。


 貴族っぽい中年男性が黙るように言っても聞かないし、神官服を着ている人らは女神をクソ呼ばわりされた瞬間表情が変わっていた。

 身分制がありそうな世界で、なんでここまでの馬鹿になれるのかが不思議だ。


 質の良さそうなドレス姿の女の子が『落ち着いてください』と不良共を止めようとしたら、不良がその子を怒鳴りつけた上に服でも掴もうとしたのか手を伸ばした瞬間。

 兵士達に止められて、さらにボコボコに殴られて制圧されていた。


 不良っぽい奴らは倒れたまま引きずられて何処かへ連れていかれた。


 ラノベなんかである何をしても許される優しい召喚ではないって事か……。

 いやまぁ一般社会でも、いきなり相手を怒鳴りつけたら駄目だよな……不安そうな表情をしてビビっている感じの演技をしておこう。


 不良のせいで説明とかが打ち切られちまった……。


 とりあえず黙って付いて来いと言われたので、ぞろぞろと貴族中年の後に付いて行く、周りは武装した兵士やら魔法使いに囲まれたまま。


 目の前で見せられた暴力のせいか、学生達は随分大人しく無駄口も一切ない。

 何人かキラキラとした表情で回りをキョロキョロと見ている奴もいるが……玉手箱が発動した原因だろうなぁ。


 魔法陣のある部屋は地下だったらしく、階段をずっと上がっていくと……。


 うわ、けっこう暑い……気温で二十度後半くらいかな?

 くそ、あのTシャツ野郎が正解かよ。


 暑いのでハーフコートを脱ごうとしたら、俺の横にいた兵士が腰の剣の柄を握りしめる反応をした……こわっ!


「あの……暑いんで上着を脱いでいいでしょうか?」


 そうやって丁寧にお伺いをする事で許された。

 俺の行為に気づいた生徒も真似して、カーディガンや上着を脱いでいる。


 そりゃ転移者にはすでにスキルが付いてる物なんだろうし、警戒するよなぁ……。


 許されたのでハーフコートを脱いで手に持つ。

 〈空間倉庫〉を使いたいが……かなり遠くに感じるんだよな……これってカード化スキルも玉手箱も物資も出せないって事じゃ……あれ?


 これってやばくねぇか?


 一番近く感じるすぐ馴染みそうなスキルは〈口笛〉とか〈鼻歌〉スキルとかなんだよね。

 まぁ〈隠蔽〉スキルは〈生活魔法〉と〈共通語理解〉以外の全てを隠すような設定にしておく。

 これならこの世界に馴染んで表に出たスキルも自動で隠してくれるだろう。


 雑魚スキルでも覚えれば基礎能力に補正が付くからさ、オークションの安いスキルスクロールは取り敢えず全部入札してたんだよね。


 耐久関係の基礎能力が上がると若々しさを保てるとかで、若さが欲しい金持ちとの入札戦争だったよなあれは……投資に見立てて儲けようとする奴とかも出てくるしさ……。


 一旦外に出たらお城が見えたし、自分らが出て来た場所は教会っぽかったね。


 そして外を歩かされる事しばし、そこかしこに歩いているローブ姿な人を見るに魔術師関係の建物って感じかな? な所に連れていかれ。


 石板のような物を順番に触っていく事になった。

 人物鑑定の魔道具らしいが説明はまったくない、あの不良共のせいかなぁ……。


 列の一番最後は俺で、前に並んでいた学生やらは自分のスキルについてぼそぼそと話し合っている。

 すでに鑑定の終わった奴らは、スキルの内容でグループ分けをされている感じだ。


 Tシャツ野郎が自分は選ばれた魔法名家の出身で、ダンジョンからスキルを得ているとかペラペラ喋ってやがる。


 しかも名前が「冬瓜とうがん」の名字だった……俺の親戚じゃんか!


 ガキの頃に何度か会っている奴だし、偉そうにするんでなるべく近寄らなかったんだよな……。

 ちなみに「菰野こもの」家というのが本家で、その分家筋の「狐草きつねぐさ」が俺の家で、分家の中の一つに「冬瓜」家もあった。


 冬瓜家の奴の見た目は学生らと同じくらいに見えるなぁ、確か本家の実験とかで消えたのが高二の時だったか?


 ……よし! 俺の名字は偽名にして基本は名前だけでいく事にしよう。

 ガキの頃に数回会っただけだし、年齢も逆転しているし気づかないだろ。


 冬瓜家の血統スキルは〈風読み〉で、まぁ……天気予報みたいなもんだ。


 日本では気象衛星を打ち上げた頃にはすでにカススキルだったし。

 裏でのさばってた各魔法名家の血統スキルスは、ダンジョンが出来てから秘儀が全部スキルクロールでばらまかれた訳だが。


 そこでもゴミ扱いされていた不遇なスキルだった……だがこの異世界だとそこそこ有能かもしれない?

 冬瓜家の奴は特殊スキルっぽいグループに入れられていて、スキルが全部で七個とか持ってたし、優遇されそうだね。


 で、俺の番だが〈共通語理解〉〈生活魔法〉しかない訳で。

 他の学生らより明らかに少なく、生活魔法も女神が言うには珍しい物じゃないらしいしな。

 俺のは日本仕様で内容が違うんだけどな?


 まぁ、ゴミを見るような目で見られて、その他グループに送られた。


 戦闘系グループに男十二、女六。

 生産系グループに男四、女十三。

 特殊系グループはTシャツと〈物品鑑定〉〈倉庫〉持ちの学生男が一人。


 最後にその他グループがあって、その他は俺と女子一人という寂しさで、女子は〈生活魔法〉と〈テイム〉持ちだった。

 魔物をテイムしたら戦闘に使えるじゃね? とも思うんだがよく分からん。


 学生らは探索者専門高校ではなかったみたいだな、普通の学生なら親にいくつかの安いスキルを買って貰えるくらいだし、奴らもそんな感じだった。


 鑑定の石板にはスキル以外にも格一とか出てたが説明はなかった。


 そしてグループが別々に別れる事に。


 戦闘系と特殊系はお城の方へ行き、位の高そうな神官達や魔法使い、貴族中年とドレス少女や近衛っぽい豪華な鎧を着た護衛の兵も一緒に付いて行った。


 生産系は文官っぽい人が複数と一般兵っぽい兵士と、位の低そうな魔法使いが付いて別の方向に。


 そして我らがグループというかコンビには、文官が一人と兵士が一人で、城からどんどん離れて行く方向に歩いていく感じ。


 うーん奴隷落ちとかになりませんように、と祈っておく。


 そうして城から離れた下級エリアといった所に辿り着き、下級文官っぽい人達が仕事をしている建物の一部屋で説明が始まった。


 兵士は帰り文官さんが残ったのだが、未だに彼の名乗りはない。

 名乗りがないって事は、もうこの文官さんに会う事もないって意味なんだろうな。


 説明を聞くに、記録にある異世界召喚だと、現れるのは一人か、もしくは多くても五人以内くらいまでだったらしい。


 さまざまな国が女神教会に頼んで異世界召喚の儀式をするが、日数にあいだが空いている方が成功する確率が高いとか、逆に連続して召喚すると誰も出て来ないなんて事も記録にはあったらしい。


 玉手箱で人を確保するのも運次第っぽいからな、そりゃそうなるだろうさ。

 勿論自分の身の安全を考えて、そんな情報は教えないけどな。


 異世界召喚は大抵ユニークスキルや強力なスキル持ちがいたとかなんとかって話を文官さんがしている。


 あー、学生ひとクラスとか数が多かったからスキルに割く神力が足りなかったぽいですよ? 勿論そんな事は教えないけど。


 Tシャツ野郎は一人だったぽいけど、偉そうな態度とかされてムカついた女神がユニークスキルを与えなかったんだろうなぁ……。


 今回は召喚で現れた人数が多く、しかも強力なスキルはなし、Tシャツの血統スキルが未確定だか、もしかしたら有用かも? くらいだそうで。

 対応に人手が取られるし、ゴミカス……もとい、あまり使えないスキルの異世界人まで世話してられないという事だった。


 支度金は出すから、紹介された仕事か、さもなくば自分で仕事を見つけろと言われた。

 今回は外れ召喚だと見なされるだろうって、はっきり言いやがったこの文官さん。


 俺と一緒に連れて来られた女子の〈テイム〉スキルは戦闘に使えるのではと聞いてみたが。

 テイムをするのに魔物を屈服させる必要があり〈生活魔法〉で危険な魔物を屈服させるのか? と文官さんに馬鹿にされた。


 だがその女子は、モフモフが手に入る〈テイム〉と、さらにモフモフを洗うための準備に必要な〈生活魔法〉を持っている事が嬉しいらしい。

 女子の堂々としたその物言いに文官さんが呆気に取られている。

 その我が道を行く考えは素晴らしい、女子に向けて拍手しておいた。


 異世界人はその知識も有用なので、何か情報があるなら重用すると言われた。

 だが転生者がいる世界なので異世界の文化はそこそこあるともいわれ。


 一応モフモフ好き女子と一緒に文官さんに色々聞いてみたが、リバーシやらゲーム類、家電を模した魔道具のアイデア等、簡単に思い付くような事はすでに情報が存在しており。


 塩の作り方などは魔法でやるから意味がなく、化粧類とかの製法が分かる訳もない。

 甜菜糖なんかもすでにあるらしいし、砂糖は王家や高位貴族で権利ガチガチらしいので、手を出さず買うだけにしとけと言われた。


 おー怖い怖い、異世界の常識も学んでおかないとな。


 商業ギルドとか各種職人ギルドとかの利権構造が普通にあるみたいだ……めんどくせぇ……。


 帆船の作り方とか建築の知識とか土木の知識とか農業の知識とか言われてもなぁ……? 学生と今の俺にそんな知識があるとでも?


 ああ……文官さんに呆れられてしまった。


 モフモフ女子が提案した、ペットのモフモフ度をいかにして上げるか、という洗い方講座は結構面白かったんだが役に立たないと言われていた。

 この文官さんに商才がないだけじゃね?


 モフモフ女子は王家が経営している牧場に勤める事になり。

 俺は……国軍が所属している砦の下働きなら紹介出来ると言われた……お城の下働きとかに空きは?


 駄目ですかそうですか、コネ社会は大変そうで……普通の職は紹介者がいないと難しい世界らしい。


 コネのないやつとか一攫千金を目指す奴は冒険者を目指すものだとかで。

 冒険者ギルドも有るんだってさ、けどアウトローの集まりってイメージを持っているみたいだなこの下級文官は、そりゃ国家公務員からしたらそうだろうね。


 冒険者の仕事の話を広げていたら、丁度ダンジョンの話が文官さんから出た。


 なのでダンジョンのある場所を聞いたら、この王都に隣接していると言われた。

 ここ王都だったのね、ダンジョンは物資が湧く資源獲得の場所として重要なんだってさ。


 王城の周りに第一城壁、貴族の住まいの周りに第二城壁、裕福な平民が住んでる町の周りに第三城壁が、ダンジョンはその外にあって、普通の平民街や畑が連なっていたりダンジョンの側に冒険者用の街もあり、それら全てを囲う第四城壁もあるらしい。


 その第四くらいになると壁の高さが大人なら外が見られるくらいだとさ、一メートルちょいくらいか? それより外は普通に魔物がいるらしい。


 支度金を貰って冒険者ギルドに行って登録、冒険者で慎ましく稼ぎつつカード化スキルを待つ事にしよう。

 あの、一応王国の後ろ盾を証明するような証書とか出せませんか?


 出せるけど面倒だとかなんだとか言い始めた……支度金っておいくら?

 ぐぬぬ、それ絶対途中で誰かが抜いてるだろ……じゃその中からこれくらいでどうですかね?


 ……。


 はぁ……まぁワイロとか当たり前だよね……。


 モフモフ女子よ、大丈夫だから、君の分の支援金もたぶん相当少ないから、気持ちだけ貰っておくね。

 優しいなぁ君は、名前を聞いておこう、うん覚えた。


 じゃぁねモフモフ女子、また会えたら日本の話でもしようぜ、では案内お願いします将来有望そうな文官様。


 今日は下級文官寮の客室に泊めて貰えてご飯も頂けるらしい。


 明日早朝の城門警備兵士出勤用の馬車に乗らせて貰えるとかで、ありがとうございますと丁寧に頭を下げお礼を言っておく。


 そしたら文官さんがキョロキョロと周りに誰もいない事を確認しつつ、異世界の政治形態や宗教は絶対に表に出すなと小さな声で忠告してくれた。


 まぁそうだよね、大っぴらに言われないのはそういう事をするやつは注意してもするって事だろうし、その結果がどうなるなんて……まぁ知らぬが仏ってやつだな。


 格の話も聞いておいた、格が上がると基礎能力値に補正がつくらしい。


 スキル制の現代ファンタジーからレベル制の異世界ファンタジーに召喚されました、ってか。


 魔物を倒すとよく上がるんじゃないかと言われてるらしいが、普通に生活していても多少上がるんだとか。

 魔物を倒した事のないそこらの職人とかでも格五くらいは普通にあるってさ、なもんで下級兵士の雇用条件が格十以上とかなんとか。


 え? 文官さん貴方格十二もあるの? 下級とはいえ兵士基準を超えてるとかすげーじゃん、へー下級貴族の四男? ……お貴族様でしたか。


 諸々の案内ありがとうございましたとお礼を言う俺、そして四男文官さんが離れていく。


 残された俺は食堂にポツリ、一応引継ぎはされているっぽいが上げ膳据え膳なんて事になる訳もなく、周りの所作を真似て俺も飯を受け取っていく。


 ご飯はパンとマッシュポテトとスープらしい、塩っけが薄くて寂しいな。

 下級文官クラスだと最低限の飯は出すが、それ以上を求めるなら自分の給料でやれって方針らしい。

 まぁ食べながら周りの下級文官さん達と情報収集な雑談をしてから部屋で寝よう。


 〈生活魔法〉で部屋や布団をどうにかしたいが、奇麗にし過ぎて目立つのは良くないだろう。

 ここは我慢して寝床の虫を殺すだけにしとこう、うう……臭いなぁ……。


 あ、〈鼻歌〉スキルが世界に馴染んだらしい、基礎能力UPだぜ!

 日本では器用さが上がるんじゃないかと言われていたが、数値で見られないからなぁ……たぶん上がっているんだろう。


 〈隠蔽〉スキルで格も一で固定しておくか、どれくらいが適正なのか調べないとな。


 おやすみなさい。

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