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 雪が悲しみの密度を増し、藍緑の波間へ溶け込んでいた。昔、りんと歩いた河辺を、修は一人さまよった。極寒の大河がざわざわうねり、彼をいざなっていた。どんなに目を凝らしても、叫んでも、鈴はいなかった。


 半月後の小雪舞う夜明けにも、梅林寺西の河原を、こけた頬に微笑を浮かべ、修は歩いていた。暗い雲の切れ間から朝陽が差し込むと、大河の波に無数の乱反射がキラキラ揺れた。

 修は誰かの手を握り、誰かと歩幅を合わせて歩いた。

「一つだけ言うけどね、あたし、あんたが嫌いなんだからね。ほんとよ」

 と誰かが語りかけた。

「おれは、一分、一秒でいいから、りんと一緒にいたいとよ」

 と修は訴えた。

「気持ち悪かあ。ほんとよ」

「ほんとなら、どうしておれとキスしたと?」

 誰かのつぶらな目が修を睨んだ。

「キスだなんて・・あんた、女たらしね?」

「女たらしだよ。だけど、りんにだけやけん。だから、北山湖へドライブに行こう」

 ショートの黒髪が首を振った。

「あたしは、しゅうが思っているような女じゃなか。そんな資格なかとよ」

「デートしてくれんなら、おれはこの川にまた飛び込むけん」

 修がジャブジャブ凍れる水流へ入って行くと、誰かの手が彼を引き留めた。

「ばかあ、あんたが入ったら、魚たちが迷惑するじゃない。早よ上がらんね」

「デートしてくれるなら、上がる」

「叩くけんね」

「いいよ。叩かんね。りんにだったら、何千回叩かれてもいいけん。だから、ほら、叩かんね。ほら、早よ叩かんね。ねえ、お願いやけん、叩いて。ねえ、叩いてくれよお」

 いくら泣き叫んでも、鈴は叩いてくれなかった。

 ただ冷たく光る無数の波が、舞い散る粉雪を静かに呑み込んでいた。














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