44

 峠の梅雨は雨が深い。雑木林でカエルが鳴き続けた。

 緑溢れる夏が過ぎ、秋が過ぎて落葉樹が色を変え、落葉積る冬となった。

 修は帰って来なかった。

 それからさらに半年たって、また梅雨に入り、カエルたちの合唱が峠に響いた。やがてそれはセミたちの必死の恋歌に代わった。セミたちが死ぬと、コオロギやスズムシが峠に切ない季節を奏でた。

 修は帰って来なかった。

 そしてさらに年月は流れ、七年が過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る