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二十一時半過ぎのバスに乗って、鈴は一人帰路についた。
「やっぱりあん人は、足をケガさせた罪の意識で、あたしを送り迎えしてくれただけなんだ」
バスを降り、暗い峠道をふらふら歩きながらつぶやいた。
「だから、あん人は、あたしを嫌になって、一人で海外に行っちゃうんだ」
梅雨を待つカエルたちの鳴き声が切なかった。ヘビやイタチが樹々の隙間から孤独な目を光らせていた。
「ああ、それなのに、あたしばかやけん、あん人に好かれてるなんて、勘違いしてた。あん人が罪の意識で言ったこと、本気にしてた。なのに、あたしばかやけん、もうこの気持ち、どうにもならんとよ」
失ったものは、この暗い峠の夜の底より深いと思えた。胸が張り裂けるという言葉は知っていたが、それがどんなに苦しいことか身に沁みて分かった。鈴の運命を変えたあの場所へ来た時、左膝の痛みに耐えかねて、道の端にうずくまった。
「ちくしょう、しゅうのばか。今夜が、あたしの、人生最後のデートのはずだったのに。死ぬ前に、あんたと最後の思い出が欲しかったのに、それももう叶わないとやね? あんた、どこで何をしてんのよ? あんたの車にぶつかってあたし、ちゃんと歩けんようになったとやけん、一生あたしを送り迎えしなよ。あたし、あんたを許さんとやけん。許さんとやけんね。ねえ、今、どこにおるとよ? しゅう、ああ、しゅう」
泣き狂っていると、一台の車が鈴の横に停まり、一人の青年が降りた。
「りん、どうしたと? 大丈夫?」
修がすぐ横に膝をついて、鈴の髪をやさしく撫ぜた。
「しゅう、どうして? どうして来てくれんかったとよ? ああ」
鈴は泣きながら愛しい胸にしがみついた。だけど虚しく地面に倒れ落ちていた。修はいなかったのだ。失ったものが痛すぎて、鈴は壊れながら修を呼び続けた。
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