37
修は迷っていた。自分が壊した鈴の人生だ。元恋人とよりを戻せて鈴が幸せになれるのなら、その人生に自分の出る幕はもうないのではないか。三年も付き合っていた男と会っているのならば、それが昨日の修の告白に対する鈴の答ということだ。それにどっちみち明日になれば鈴とはサヨナラなのだ。今日が鈴と会える最後の日だとしても、彼女の幸せを考えたら会うべきじゃないのだろう。だけど、鈴の仕事時間が終わる午後四時半になると、居ても立っても居られなくなって、部屋を飛び出していた。一分、いや、一秒でもいいから鈴に会いたい。会わないと息ができなくて死んでしまいそうだ。弁当屋が見える角まで走って行くと、見覚えのある車から背の高い男が出るのが見えた。今朝見た若者だ。弁当屋の駐車場に出てきた鈴に嬉しそうに声をかけている。修は彼らに見られないようにビルの陰に身を隠し、近くのスーパーマーケットへ歩いた。
「おまえはどこの何ものだ?」
泣くまいと必死に笑いながら影に尋ねた。
「おめえはどこでもない国の何でもない者」
と影は答える。
「あのこが幸せなら、それが何より大事じゃないと?」
「それで、おめえは何を失った?」
と影は問い返す。
「りんは、もう、さみしくないとやろ?」
ゆらゆら揺れる影を追って、スーパーマーケットへと入って行く。人込みの中、鈴のいない国を修は歩く。あまりの心苦しさに、大好きなイチゴを五パック籠に入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます