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「いっせい、久しぶり。わたし、誰だか分かる?」

『薔薇園』の控室で、亜紀は営業の電話をかけていた。

「あきちゃん」

 と男は言い当てた。

 電話の相手は山下一成。義姉の鈴が初めて付き合った男だ。

 亜紀はテンションを上げてしゃべった。

「わあ、嬉しかあ。いっせい、最近元気しとるね?」

「元気、じゃないよ。あきちゃんにもりんちゃんにも会えんで、さみしかけん」

 こいつ、相変わらずだな、と亜紀は思う。だけど落としやすい男だ。

「わたしもいっせいに会えんでさみしかとよ」

「りんちゃんは、元気しとる?」

 亜紀は顔をしかめ、空いた手で自分の腿を殴った。だけどすぐに頬を上げ、切ない声を装った。

「りんもずっとさみしがっとるわ。いっせいにとても会いたがってるとよ」

「ほんとね? あの借金取りたちは、まだ来よると?」

「やつらはもう、心配いらんとよ。わたしが解決したけん。わたし、久留米の『薔薇園』ていうお店で働いてるとよ。いっせい、一回でいいから、来てくれん?」

「薔薇園? 高いお店?」

「いっせいの家は、お金持ちでしょ? ねえ、サービスするけん、一回だけ、来て。わたし、店ではアンっていう名前なの。指名してくれたら、いっせいにだけ、前のように、キスもさせてあげるし、好きなとこ触っていいわ。りんとだって合わせてあげる。ねえ、わたしもりんも、いっせいが、とても恋しかとよ」

 営業用の甘い声で誘惑した。













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