13

 その夜、峠の古屋に心身ぼろぼろでたどり着いた鈴を待っていたのは、鬼婆と化した景子だった。

 鈴は義祖母の前に力なくひれ伏して、

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 と泣き崩れた。

 その震える鈴の頭を古畳に押しつけ、老婆も泣きわめきながら殴り続けた。

「あきに全部聞いたとよ。あんたがそうすけを殺したってね。あんたは、人間じゃなか。いいや、畜生だって親は殺さん」

「あたし、ここを出て行きますけん、許してください」

「何ば言いよっとか。出て行って、許さるっち思うとか。地獄に堕ちれ」

 皺だらけの手で鈴の両耳をつかみ、引きちぎろうと引っ張った。

「ひぃいいい、あたし、死ぬけん、死ぬけん、ひいいい」

 抵抗はしない。この耳が無くなって、嫌なことが何も聞こえなくなればいいとさえ思う。

 老婆はさらに耳を引っ張り、もう一度鈴の顔を古畳に押しつけた。

「この畳はそうすけの血でいっぱいやったとぞ。ほれ、血の匂いがするやろう? そげん死にたかなら、わたしがこの手で地獄に引っ張って行ってやる」

 また紫に腫れる拳で頭を叩きだす。

「地獄へ行きます。地獄へ行くけん」

 泣きながら見ていた亜紀が、祖母にしがみついて懇願した。

「お婆ちゃん、もうやめて。本当に死んじゃうよ。言ったやんね・・りんはわたしを高校卒業させるために働いてもらわんと困るって。うちの借金だって、この人に返してもらわんと、どげんすると? ここがりんの地獄だよ。お父さんを殺した、この世がりんの地獄やけん」

 老婆は亜紀の腕から身をよじりながら、なおも渾身の力で殴り続ける。

「わたしの命より大事な息子ば、こいつが殺したとぞ。よそから来て、いっぱい世話になっとって・・こいつは人間じゃなか。こいつは・・」

 振り上げた拳がぶるっと震えて止まった。するとその手ががくんと落ち、老婆は孫の腕の中でぐったりとなった。

 卒倒した祖母を揺すりながら、亜紀は呼びかけた。

「あ、あれっ? お婆ちゃん、どうした? お婆ちゃん? ねえ、りん、お婆ちゃんが動かんごつなった。ねえ、りん・・」

 助けを求めたが、義姉も意識を失くしていた。
















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