3. 職場体験?!

※このお話以降、てぇてぇ成分が増えていきます

―――――――――――――――――――――


 初配信まで残り3日目となった朝、こころに手を牽かれ社長室へ。



「おぉ、よく来たね。デビュー日まで残り数日となってしまって申し訳ないんだが……ようやく他3期生との顔合わせの段取りを組むことができたのでね。その報告もかねて、今日は職場体験と行こう!


――って思っているのだけれど……時間はだいじょうぶ、かな?」


「あ、だいじょうぶです!でも、職場体験?って…」


「うんうん。まあ、私にも少しは承認欲求があってね、自分の作った技術を自慢したいのだよ!

 つまり、あれだ。イドラ&リアリティが会社は小規模ながらも、大多数の人気を獲得している理由の一端を見せようってやつだね。」


「も、もしかして……"謎技術"と呼ばれている、あ、あのキャプチャーですか?」



 イドラ&リアリティは3期生を含めなければ、所属ライバーは3人と、企業Vとしてはかなり小規模なんだ。だけど、どのライバーも登録者がワンミリオンを優に越えている。

 

 これにはもちろん、ライバーの魅力や実力が積み重なって生まれた結果ではあるんだけど……それでも初速がなければ埋もれてしまうのが数多のVライバーがいる世界なんだ。

 

 そんな初速が爆発的だった理由こそ、どこを見渡しても存在しない、イドラ&リアリティだけが保持する技術。リスナーや技術解析系のfuntuberからは、親しみや観念の意味を込めて"謎技術"と呼ばれているもの。



「その通りだよ。といっても、コストはバカみたいにかかるわ、ものすごく時間は取られるわで、あんまり好きじゃないんだけどね。それに、まだまだ不完全なところも多いから、納得できていないというか……なぜ、こんな未完成品を欲しがる人が多いのか…」


「お父さんは、わりと職人気質。未完成品でも、使えるようになったのはお母さんと私のおかげ。」



 ふんすっ、と胸を張るように自慢するこころ。ここは素直にすごいと誉める。



 というのも、本当に謎技術が謎な技術なのだ。



 Vtuberの配信と言えば、ゲーム配信でない限り、1枚絵を背景に、コメントの表示する枠とバーチャルの核である立ち絵がデフォだと思う。大手企業や財力つよつよな個人Vとかだと、2Dの立ち絵じゃなくて3Dであることが多いみたいだけど。



 だけど、モーションキャプチャーはカメラの都合上、画角から外れれば俗に言う"魂が抜けた"状態になるし、激しい動きや接続の問題で変な挙動になることがしばしば。


 もちろん視聴者側もそうなることは理解しているし、当たり前だと思ってるからわざわざ指摘することはあんまりないんだけど。


 それでも、企業努力はすごくて、無生物の細かな動きすらもキャプチャーできるようになっていった。

 


 けれど、イドラ&リアリティの技術はそのようなものじゃないんだ。

 一言で言うなら、本物のバーチャル世界を映しているって感じ。

 素人目でもわかる異常性がいくつもあるんだ。


 例えば、一度も挙動不審にならないこと。常に全身が3D表示であること。表情が差分で説明がつけられないほど滑らかで、無数にあること。衣装が頻繁に変わるライバーがいること。部屋に置いてある全てのものがモーションキャプチャーされていること。質感がほんとにリアルな感じであること……キリがないくらいにある。


 3D、2Dとか以前に、バイオハ◯ードのようなリアルなCGアニメの方が表現がより近いかもしれない……



「ま、いずれ3期生の皆にも与えることになるから、その時まで楽しみにしててくれると嬉しい。


――さて、奏ちゃんと3期生の顔合わせは今日の16時からになるので……朝食をとってからにしよう」




□◆□




「それじゃあ、今日の職場体験について説明を。



 まず、他の3期生は既にこれを終えているんだ。ちなみに顔合わせも済んでいたりする。

 なので、その時に務めてくれた二期生の猫宮虎向ねこみや こなたさんにお願いしている。」



「えっ、あ、あの?」



 二期生、猫宮虎向。身長165cmの金髪ウルフカットに黒のメッシュが入った、虎猫の獣人系V。目の色もきれいな金色と黒で、怒ったりビックリすると瞳孔が細くなるのが特徴なんだ。



 性格は明るく活発な陽キャって感じで……見るのは楽しいけどリアルだとちょっと……雑談やゲリラ的に始まるよくわからない枠がリスナーからウケている。ゲームは壊滅的に下手だけど、その代わり悪運が強いのか毎回落ちがつくのが面白いところ。一部では狙ってやってるとか言われてるみたいだけど。


――ただ……



「大丈夫。彼女は気遣い上手……そんなに怖くない…たぶん。」


「それに、彼女は炎上を経験しているからね。メンタルのケアも任せられる。もし、配信のトラブルで困ったら彼女を頼るといいだろう。」


「うぅ…はい、が、がんばります」


「ところで、奏ちゃんはこの家の裏手はもう見たかな?」


「裏手…?そういえば、正面玄関の向こうにも何か玄関っぽいのがあった…?」


「そうそう。そこを通ると、丁度この家の裏側に出られてね。もう一つここと同じような屋敷が立っているんだよ」


「もともと奥様と使用人ようのお家だった」


「き、貴族かなにか…だったり……?」


「ははっ……つまりそこが職場だね。今だと……そうだね唄意さ――


「お父さん?……私もかなでについてくから」


――んは用事が入ってるな。となると、今からでは…やはり猫宮さんとの対面のみになるが、行くかい?」


「は、はい!こころも…き、来てくれるの?」


「もち」


「よし、それでは……猫宮さんも大丈夫とのことだし、向かおうか」




□◆□




 裏口からでると、本邸よりは少し小さめな屋敷が建っていた。

 

 中に入ると真っ先に目には入るのが広間と大きな階段。本邸が最近の建築物なのに対して、こっちはなんだか洋風の館感がある。東方の紅魔館的な…き、緊張してきた。



「ほら、見えるかな?ドアに『猫宮のへや』と書かれたプレートがあるのが。あそこが、猫宮さんの職場になる」



――コンコンッ



『おっ!今かぎ開けるさかい、ちょいまちや!』



――ドンッ!バタンッ!



(運動神経は抜群……なのにおっちょこちょい…)


(そ、そうなんだ)



――カチッ…ガチャッ



「……!」



 開いたドアから出てきたのは、バーチャルモデルとほぼ同じ人。耳と尻尾は見えなくて目の色だけ黒だけど、それ以外はほんとにそのまんまで……



「おぉ~!ちんまりしとって、かわええやん!この子が例のかなでちゃんかー、ええなぁ!

 うわぁ、髪の毛サラッサラのふわっふわっやん!しかも、めっちゃいい匂いやんけ!ほんまに男かいな!あー、でもなかなか色は付きにくそうな髪質やんな。

 ほんでもって、肌チョー白いのうらやまやわー。さてはあんまし外に出てへんやろ?まっ、ワシもいうほどなんやけどな!アッハハハ!」



 いきなりの言葉の奔流でフリーズしているうちに、いろいろ触られ撫でられ、気づいたときには持ち上げられていた。




「あっ、えっ?え!やっ、たかい?」


「うわー!ほんま軽いんやなぁ。ってか、この子抱き枕にして寝たいんやけど!触り心地ええわぁ~♪」


「だめ!かなでは私の。誰にもあげないの!」


「お?なんや、こころもおったんか!ほんなら、二人とも一緒でええやん!だいたいおんなじ大きさなんやし。ささ、ベッドにレッツゴー!」




「あー、コホンッ!

 私のこと、忘れてはいないかな?」


「だって、あんたおっさんやん。」


「うぐっ……ともかく、今回は職場体験だ。そういうのはプライベートでしなさい。それに私はまだおっさんではない」


「はいはい、ちゃんとわかってますって。それに、初対面相手は一気に距離を詰めた方が緊張も――


 あ、この子…目ぇ回してますわ…」




 


 ようやく落ち着いて、辺りを見回せるようになった。


 どうやら、職場といっても、どちらかと言うと私室みたいな感じになっているみたい。

 

 部屋は好きなように改造していいらしく、壁紙やカーペットはもちろん、家具にしろ何にしろ自分のお好みでデザインしていいそうだ。


 ただ、謎技術によって部屋ごとキャプチャーされることもあり、ゴミだらけにはしないようにとのこと。



 後は、イドラ&リアリティが用意した商品カタログ以外の製品を持ち込まないようにとのことだった。


 というのも、キャプチャーして再現する技術が高度すぎて、権利の許可を得ていない商品を部屋に置くのはちょっとマズいらしい。

 

 猫宮さんがVキャラクターに寄せた格好をしているのも、負荷軽減の目的とかいろいろあるらしい。

  

 

 ボクの3Dモデルは現在製作しているようで、まだないから今回のお試しは、動作の認識程度だった。けど、ものすごく楽しかった。


 社長がいうには、部屋にさまざまなセンサーが埋め込まれてるようで、リアルタイムに、人だけでなく部屋や家具、埃に至るほどの小さなものでも漏れなくキャプチャーし、その部屋にある社長自らが作ったパソコンにおとしこまれる仕組みになっているみたい。


 そのキャプチャーされた情報をもとにして、物体が自動で再現される仕組みで、この間には時間差がほとんどないっていうのがすごいところ。



「まっ、その分、掃除とか面倒なんだよなぁ。いうても、埃まで再現したところで、映ってても小さすぎて見えんから、そんなに気にせんでもええんやけど!」


「そ、そうなんですね……その、いつも服装が違うのも、このキャプチャーを利用して…?」


「その通りや!

 炎上のおかげで、ワシにファッション誌とか衣装系統の企業さんから案件をようもらうようになったんよ。

 んで、使わん服が溜まっていくのは、ちょっともったいないやろ?やから、配信で宣伝もかねつつって感じでやな!」




 猫宮さんの声は爽やかイケメン風な感じで、女性にしては低めなんだよね。だからこそ、初期には男性じゃないかって疑う人が多かったんだ。


 それで、当時、一期の唄意さんは歌姫とか聖女みたいな感じで崇められてたのもあって、猫宮さんは唄意さんとオフでコラボをして炎上したんだ。


 いくら女性アピールをしても、会社側で擁護しても、だんだん火は大きくなっていって、しまいには、女である証拠を見せろなんていう発言も出てきたくらい……すごく気持ち悪い悪口が増えつつあったんだ……。


 普通ならここでやめてもおかしくないんだけど、彼女はリアルで猫宮のコスプレした画像を投稿。

 企業Vがリアルを暴露したとして大炎上することとなった。けど、その企業である弥重社長がリアルを暴露して何の問題があるのだろうかと呟き、これをきっかけによくわからないまま鎮火していった。


 その後、猫宮のリアルでの美しさやコスプレの再現の高さが注目されて、雑誌のモデルや、人気ファッションブランドのとこから案件が来るようになったっていう経緯がある。



「ちなみに、リアルの写真投稿は社長の同意のもとで、やからな?

 なんか、リアルをタブーとするのほんまに理解できん。新たなVの在り方として一石を投じてやれーみたいなことを言うてはったなぁ。

 まぁ、たしかに個人勢とかコミケでリアルを見せとる人おるし。それに前世やらなんやらで切り抜かれてても、視聴回数多いわりにはそのまま応援続ける人がほとんどやしな!」


「そ、それは、まぁ…そうなんだけど…自ら見せるのはなにか違うような…?」


「まっ、あんときはしゃーないわ。炎上の矛先ずらして収めるしか、収集がつかんかったし。免許証とかの性別欄を載せたとて、言うやつは言い続けるんよ。


――ま、しょーもない話はここまでにして、せっかく新しいおもちゃがあるんや!これで遊ばずしてどないするってあれよ!」


「謎技術がお、おもちゃ……?」


「さぁ、覚悟しいや?」


「……大丈夫。かなでもそのうち好きになるから」






この後、めちゃくちゃ着せ替え人形にされました。


 撮った写真はボクのお母さんにも送られるそうです。


 社長はいつの間にか居なくなってました。




 どんな服を着せられたのか、だって?




 ――察してほしいです。でも、下着だけはなんとか抵抗できました……よかった…。

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