閑話 弥重社長のありがたい?お話

注意:あくまでもこの世界線でのお話です!

――――――――――――――――――――





 これは、ボクが弥重さんのもとで生活を始めて二週間目のこと。




「あっ、いた、かなで。お父さんが呼んでるから、来て」


「うん。いつもの場所?」


「そう…はい、手…出して。」


「う、うん。ありがとう」




 の名前は弥重こころ。名字からわかるように、弥重社長の子供らしい。



 ボクが弥重さんの屋敷にお世話になるということで、お母さんが一時的に実家に帰ることとなった。

 その初日に、まだボクの部屋の用意できてないということで、別の部屋に案内されたんだけど……天蓋付きの大きなベッドの上に、ちょこんと座っていたのが こころ だった。



 ほぼ同じ身長(ボクが1cm負けてるんだけども)で、しばらく暮らしているうちにどこか共感できたのか、あまり日をおかずに仲良くなった。

 

 といっても、互いに会話することはあまりなく、無言の空間が心地よく思える間柄ってだけなんだけど。




 そんなこんなで、何の用事なんだろうと思いつつもこころに手を引っ張られ、ついていくことに。



「私も知らない。でも、同席だから、二人に関係のある話…かも?」


「ふ、二人に、関係のある話……?」


「悩んでても、仕方ない……着いたから、聞きに行こ?」



 こころの言う通りなので、素直にうなずいて部屋に入った。



「おぉ、もう来たのか!いや、ゆっくりしていたところすまないな。どうしても奏に話しておきたいことがあって、だな」


「……お父さん、私は?」


「ん?……あ、いや……あー、一度、こころにもした話だから、あれだったら部屋に戻っても、だいじょうぶ…だぞ?」


「ん、おけ。つまり、私とかなでの仲の良さを知ったうえでの配慮……どう?」


「ま、まぁ、その通りなんだが……


――ン"ンッ! とりあえず、本題に行くとして…


 奏ちゃ……奏くんに一つ質問してもいいかな?」


「は、はい……なんでしょうか?」


「奏くんはこれまでいろんな動画や配信に触れてきて、さまざまなテレビ番組やラジオを聞いてきたって君のお母さんから聞いているんだ。そのなか――


「お父さん?」


 あぁ、いや。このままだとしゃべりすぎて前置きが長くなってしまうね。ここは一言にした方がいいか……そうだな、Vtuberってどんな存在だと思う?」



「……えっ、えっと……い、生きてる2次元?」


「ん。その話…こころはアイドルって答えた」


「そうだね。……生きてる2次元…か。ある意味でVの本質をとらえた回答だね。

 さて、ここからイドラ&リアリティの方針も含めた、おじさんの持論になるけどいいかい?かなり長くなるから、疲れたら遠慮せず言っていいからね。




 私は今のVtuberとは"服"のようなものととらえているんだ。


 というのも、みんな知っての通り、Vtuberの仕組みはアニメキャラのようなイラストに、声をあて、動きを加えるというものなんだ。この事をまず忘れないでほしい。基本的なことだからね。


 昔は動画投稿のVtuberが多かった。なぜなら、当時はオリジナルアニメの延長という概念が主流だったからだね。あとは、身近なアニメ的アイドル、とかかな。

 だからこそ、当時は中の人を"演者さん"なんて呼んでいたんだ。それこそ、アニメの声優さんみたいな感覚でね。ただ、Vtuberの場合、そこに謎のベールで包まれていると言う神秘があったんだ。当時はそこまで神秘の詮索は行われなかったんだけどね。みんなも、昔はアニメキャラよりも声優に注目することはなかっただろう?それと同じだと思うんだ。

 それと、そもそものVtuberの総数が少なかった。それに伴ってファン層や母数も集中していたんだ。まさにオタクと呼ばれる文化に住む人々だけに、ね。


 だけどね。いくら演じるといっても、アニメのように期間が存在する訳じゃないんだ。1年、2年と経つうちに、演者とVが重なってくる。そして、ファンの人々もVを見ていながら、その実、演者の輝きに惹かれていくようになったんだ。

 となると、アニメと同じ長さじゃ物足りなく感じてくる。なぜなら演者さんと言う、人間性を求めるようになったからね。

 

 そんななか登場したのが、"配信"という活動方法なんだ。

 これのお陰で、リアルタイムかつ、コメントという形でのコミュニケーションが図れるようになった。一言で言うなら、バーチャルとリアルとの距離が大きく縮まったんだ。

 

 だけど、生配信に台本はなく、台詞などは全てリアルタイムに紡いでく必要があった。そして、さっきも言ったように、演者とVが重なることで発せられる人間性の輝き。これが配信では求められるんだ。

 だからこそ、配信ではアニメキャラの声優は求められず、演者とVが重なったVライバーとしての姿を望まれるようになったんだ。


 ちょっと分かりにくいかな?

 ……そうだなぁ、求められるようになったのが、Vのキャラだけじゃなくなったんだ。必要なのは、Vのキャラと演者の人格……って言うと想像しやすいかな。


 この頃からかな。Vの中の人が演者さんって呼ばれなくなったのは。それに成り代わるようにして"魂"って言葉で表されるようになったんだ。今もそう呼ばれることが多いかもね。

 そして、配信は環境さえ整っていれば誰でも始めることができた時代だ。この頃から、個人勢のVライバーが増えてきたんだよね。


 けれど、配信には欠点があったんだ。それは、魂の人格が表面に出すぎてしまうこと。そして、失言や過ちは編集できないこと。この二つが致命的な悲劇を起こすんだ。


 ファンが求める……まぁ、需要ってやつは、Vのキャラと魂の人格の調和なんだ。そうしてできた新たなキャラクターに惹かれて、応援していく――いわゆる推し活だね。


 だけど、配信は先程言ったように編集ができないんだ。一度の失敗が取り返しのつかないことになる。調和した状態を応援していたからこそ、そこからズレるだけで、応援は非難に変わる。


 じゃあ、どうするか。


 なるべく配信活動に慣れていて、失敗しない、 またはリカバリーがしっかりとれる人が魂の候補として挙がるんだ。

 そうすることで、少しでも長く、多くのファンを獲得できるようなVライバーになることができる。

 しかし、ここまで来るとしっかりとした選別が必要となってくるんだ。そこで、日の目を浴びるようになったのが企業勢のVライバー達だと思ってる。


 そうして、企業というバックアップや整った環境から、徐々に企業Vの規模が拡大していくんだ。

 大きくなればなるほど、ファン層にも変化は出てくる。そして、若者のTV離れなんて一時期話題になってたように、配信するプラットフォームが番組のかわりに変化していったんだ。

 

 また、企業の拡大で、次第にコマーシャルやリアルなTVの番組、ラジオの出演するようになった。そうして、Vライバーと芸能人の境界の曖昧化が、加速していったんだ。



 こうなると、もうVライバーは職業だ。

 バーチャルというイラストの"制服"に身を包み、不特定多数に向かって、自分をアピールしていく。」


「……なるほど…だから、"服"」


「あ、別に私はこのあり方が悪いことだとは思っていないんだよ?実際にいくつもの企業が大成功して、世界規模で展開しているからね。

 

 そんな企業と比べれば、私の会社の規模は弱小も弱小だよ。まぁ、ありがたいことに、みんなのお陰でファン数は多いんだ。



 ただね、このままでは遠くない未来にバーチャルの文化は緩やかに衰退していくと思うんだ。


「……えっ?……世界的に有名な文化になりつつあるのに…?」


「……だからこそなんだ。

 世界規模で展開し成功を納めるまでが早すぎたんだ。

 スマホが出来たのは確かに二十年前だ。しかしながら、Vの文化が日本で流行ってから、世界に広まるまで長く見積もっても6年もないだろう。

 3Dの技術……いわゆるフルトラッキングの一般的な普及ですら最近のことなんだよね。


 単純に、技術革新がVの文化拡大に追い付けてないんだ。

 さらに、ここ数年は新たに広まった病原菌によって様々な活動が制限された。娯楽のための技術の更新が難しくなったんだ。


 確かに、Vの文化は広まり強く根付いたといってもいいとは思うんだよ。V文化が好きな人は、これからも応援してくれるとは思う。けれどそこ止まりなんだ。

 今あるV文化が芸能文化の一つとして組み込まれるだけ。その先がないんだ。


 というのもね、今あるV文化は広いようで狭いんだ。

 ……矛盾していると思ったかな?


 詳しく説明すると、Vの文化が広く見える理由は、母数の大きさが原因なんだ。Vライバーの母数やファンの母数っていうかんじでね。だけど、世界の総人口で見たら、それは少ない数なんだ。ネット環境整備のこともあるんだけどね。


 あとは、元も子もないけどVライバーといってもリアルは存在するんだ。いくら長時間の配信をしたところで、Vの存在が電子の海のなかに常にいる訳じゃないし、視聴者達もリアルからVを眺めているんだ。


 要するにバーチャルだけでいられる場所が存在しないんだよ。それこそ、よくSFとかででてくる、世界規模の仮想現実ってやつみたいな。

 でもまぁ、ないのは当たり前なんだ。だけど、それを作ることのできる土台は揃いつつある……けど時間が足りないんだよ。


 もし、そんなSFチックな世界規模の仮想現実が実現すれば、Vの文化は今よりももっと、爆発的に広まるんだけど…。今あるのはFuntube等々のいくつかの配信プラットフォームだけ。

 VRを利用したライブなどで拡大する動きが見られるけど、でも―――」


「お父さん、長い。そろそろ良い子は寝る時間。つまり、何が言いたいの…?」


「…あ、あぁ。

 つ、つまるところだな――古くから…インターネットが確立されていない時代から既に、人類の夢だったバーチャルリアリティ。その実現が遂に叶う一歩前に来ているんだ。

 それなのに、バーチャルの住民を先駆けるVライバーが、V生活が、キラキラしていないんだ。

 確かに現時点でも十分輝いているようにも見えるが、そんなのLED電球に比べれば、白熱電球程度でしかない」


「……白熱電球も結構明るいような…?」


「…そうなってしまっている原因は、バーチャルと謳いつつも、前世やら引退やらで中途半端にリアルを出しているのにも関わらず、Vの文化がリアルに関することを完全にタブーとしてることにあると思うんだ。

 

 一番望ましい結果は、もちろん全人類バーチャル化だ。だが、今の時代では難しい。ならば、今だけでもリアルとバーチャルを融合すればいいじゃないか。バーチャルの世界で完結できないのは誰の目から見ても明白なのだから。そうすれば、今のVライバーもさらにキラキラし始めるはず。」


「「……」」


「ふぅ、やっぱり好きなことについて語ると、あっという間だね。


 まぁ、あれだ。


――君にはキラキラしたV生活を送ってほしいから、何も気にせず、自由に、思うがままにやってくれって話だね。

 あー、でも法や道徳的に反する行為はしないように、ね?それ以外なら、どんどんといろんなことに挑戦してほしい!」



(お父さんはバーチャルオタク。話し始めると止まらない…おけ?)

(う、うん。……で、でも素敵なお父さん…か、な?)

(んー…たぶん。それよりも、眠いから寝よ?……ん!手…)

(あ…はい…)

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