「貴女は、ウォーレンに婚約者がいることは知っていたのでしょう？」

　ディアヌに問いかけると、彼女は青ざめた表情で震えながら答えた。

「し、知っていました。だけど私、ジスレーヌ様を傷つけようだなんて思っていないです！」

　彼女は意外とあっさり白状した。知らないふりをするだろうなと思っていたから、問い詰める気でいたのに。もしかして本気で、誰かを傷つけるつもりはなかったと、言っているのか。そんなこと、あるわけない。

「婚約者のいる男性を誘惑していおいて、今更何を言っているのですか？」

　呆れてしまう。彼の他にも、婚約者の居る相手を何人も誘惑してきた。私の婚約者であるアンセルム王子も、そんな彼女に夢中になってしまった。ハマってしまう男も問題あるんだろうけれど。

「婚約者のいる男性を誘惑するような人物を警戒するのは当たり前です。男性の婚約相手だった女性が、ディアヌを避けていただけ。その後に噂も広がり、常識的な方であれば関わり合いになりたくないと考えるのも当然でしょう」

　ディアヌが色々な男を狙っていると、学園内では噂されていた。そんな彼女の友達だなんて思われたくない人達が、彼女のことを避けていただけ。

　無視されていると感じたのは、良くない行動によって孤立しただけで自業自得だ。

「しかも、その状況を利用して彼女は積極的に男性を頼った」

　私、周りにいる女子生徒たちから嫌われているようなんです。私と楽しくお話してくれる友達が、一人もいません。だから学園生活が、とっても辛いんです。

　泣きながらそう言って、ディアヌは複数の男性達に相談して同情を誘った。彼らの心に訴えかけた。

　学園に通っている貴族子息は、今の年齢だと婚約相手が決まっている場合が多い。格式高い家であれば、ほぼ全ての人達の相手が決まっている。

　それなのに、ディアヌは必要以上に男子生徒たちと親しくなろうと近寄っていく。婚約者なんて関係なく誘惑するから、女子生徒たちから不快に思われていた。

「なので、彼女が無視されたり嫌がらせされた原因は誰なのかと聞かれたら、本人の行動による自業自得、ということになります」

「そんなっ……！　私は、そんなつもりじゃ……！」

　この期に及んでまだ、可憐な表情を曇らせて涙を流し、男達の同情を誘おうとするディアヌ。

　話を聞き終えたウォーレンたちは、苦渋に満ちた表情を浮かべていた。ディアヌを庇おうとはしなかった。周囲から向けられる冷たい視線も、やっと感じたのだろう。非難の空気を感じ取って、体を縮こまらせている。

　だが、私の婚約者であったアンセルム王子は不満そうな表情のままだった。今まで沈黙していた彼が口を開き、周囲に向けて言い放った。

「こんな女の言うことなんて、聞く必要はないッ！」

　やはり貴方は、まだ諦めないのね。

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