第3話 運命の日
それは、私達が王立学園に入学する日に起きてしまった。
いつものように、私とアンセルム様とエリオットの三人で行動していた。入学式が始まるまで少し時間があったので、校内を適当に散歩する。今日から通うことになる学園を見学しながら。
裏庭を通りかかった時、泣きそうな顔をした女子生徒を発見した。周囲を見回し、不安そうな表情だった。おそらく彼女は迷子なのだろう。
「アンセルム様。あの方、スカーフの色が青ですわ。私達と同じ新入生のようです。それに、とても不安そうな表情。おそらく、広い校内で迷子になったのでしょう」
「ん? そうだな。もうすぐ入学式が行われる時間だから、彼女を講堂まで案内してあげようか」
「えぇ、それが良いと思います」
私達は、迷子らしき女子生徒にゆっくりと近づいていった。
私が先頭を歩いて、アンセルム王子といつも通り寡黙なエリオットがついてくる。かなり慌てていたので、彼女を驚かしたり怖がらせたりしないように注意しながら、同性である私が声を掛けた。
「あの。もしかして、迷っているのですか?」
「え?」
泣きそうな表情の彼女は、私の顔を見た。するといきなり彼女は、触れ合うような距離まで接近してくる。
「そ、そうなんです! 私、皆に迷惑をかけないように事前に学園内を歩いて確認をしておこうと思って。でも、見回っている間に迷子になっちゃって。また皆に迷惑をかけてしまうかもしれない! ど、どうしよう!?」
「っ! そ、それは大変。でも、その前に落ち着いて下さい」
彼女の勢いに圧倒される。落ち着くように言ってから、離れた。同じ女性だけど、誰かも知らないような相手。こんなに無遠慮に近付かれたら、少し不快だ。
「でもでもッ! もうすぐ入学式が始まる時間なのに、遅れてしまったらどうしようかと思って、とっても不安で!」
「わかりましたから。私達も入学式に参加するために、講堂に向かいます。だから、一緒に行きましょう。よろしいですね、アンセルム様」
「……」
「アンセルム様?」
横に立っていたアンセルム様は、何も答えなかった。アレっ? と思って彼の顔を確認した。
アンセルム様の顔を見て、私は思わず息を呑んだ。アンセルム様は、今までに見たことがないような熱い視線を、名前も知らない迷子の女子生徒に向けていたから。
なぜ、そんな熱い眼差しを彼女に向けているのか。
そしてアンセルム様に見つめられている少女もまた、瞳を大きく見開いて頬を赤く染めていた。食い入るように、アンセルム様を見つめている。
こうして私は、二人が恋に落ちる瞬間に立ち会ってしまった。
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