第33話 決心と離乳食
「あおいさん。実家には行くの?」
みおちゃんが眠ったタイミングで、彼女に聞いてみることにした。
「…………あまり行きたくないかな」
「そっか……どうしてか聞いてもいい?」
「…………私が物心ついた時には、お母さんは一人で頑張って私を育ててくれたの。なのに、今更実家から会いたいなんて言われても、どうしてもっと早くから助けてくれなかったのかと思ってしまうの」
それもそうで、今更と言えば、今更でもある。
でも……何となく、向こうの実家は頑張って探してようやく見つけたのではないかと、思っていまう。
「俺は会った方がいいと思うな」
「えっ? どうして……?」
「だって、もう二人の肉親はいないと思っていたのに、今はいる事が分かったって事だから…………言わないで後悔するより、言って後悔した方がいいというか、会わなくて後悔するよりは、会って後悔した方がいいと思う」
彼女は俺の答えを聞いて、考え込んだ。
「まだ時間はあるから、ゆっくり考えてみてよ。でも、俺はみおちゃんのためにというより、あおいさんの為に会っておいた方がいいと思う」
あおいさんは大きく頷いて返してくれた。
◇
学校も日々がゆっくり進む。
俺はというと、あおいさんの結果が気になって仕方がないけど、こればかりは待つしかないので、心配にはなるけど、いつもと変わらない生活を送った。
「一条くんよ」
「ん?」
木船くんが声をかけてくる。
「そろそろ姫とはどうよ」
またその話かい!
「全く進展はないね」
「まじかよ! なあなあ、クリスマスはどうするんだ?」
「クリスマス?」
「冬休みに入ったら、クリスマスが来るだろう? 絶好のチャンスなのではないか?」
クリスマスか~。
うちはあまり祝ったりしなかったので、全く覚えていなかった。
そういえば、もし彼女が実家に挨拶に行くなら、クリスマスはこちらにいない事になるだろうからな。
「そうだな。
「おう!
いや、それ
◇
最近ゆみちゃんがあまり遊びに来てくれないので、基本的には俺とあおいさんで過ごす事が多い。
ゆみちゃんがいないと、母さんはどうするのかなと思ったら、おじさんに送り迎えして貰ってるみたい。
まあ、俺よりそっちの方がいいから、ゆみちゃんもそちらに合わせているのかも知れない。
「そうたくん」
「ん?」
「えっと…………クリスマスは何か用事ある?」
く、クリスマス!?
木船くんの所為で、変な期待してをしてしまう。
聖夜…………いやいや、そうじゃないだろう。
「いや、うちは特にそういうのはしないけど……」
「そっか…………」
「何かあるんなら、あおいさんに合わせるよ?」
彼女は小さく笑みを浮かべる。
この笑みって本当に反則的に可愛らしい。
「えっとさ。もしそうたくんが良ければなんだけど…………実家に行くの手伝ってくれない?」
「実家……行くの?」
「うん。そうたくんが言ってくれたように、会わないで後悔するなら、会って後悔しようかなって」
「……うん。その方がいいと思う」
「でもね。一人だと勇気が出なくて」
みおちゃんがいるじゃないかと、喉まで上がった言葉を飲み込んだ。
そういう意味ではないよな、きっと。
「もしそうたくんが一緒に来てくれたら、私……ちゃんと会えると思うの」
彼女の頑張りを無下にしたくない。
だから、俺はすぐに承諾した。
少し不安な顔色を浮かべた彼女に、大丈夫だよと伝えると少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
その日の夜。
「母さん、一つお願いがあるんだけど」
「ん? どうしたの?」
「えっと、冬休みが入ったら、あおいさんと少し遠出して来ていい?」
それを聞いて驚く母さん。
何となく顔色から、思っている事とは違うと思う。
「母さん、多分思っている事と違うと思う」
「そ、そうなの?」
「えっと、あおいさんの実家に一度顔を出したいんだ。あおいさん一人だと心配だから」
「あ~そういう事ね。いいけど、どうして母さんに?」
「一応時期的にクリスマスだし、もしかしたら一泊くらいしてくるかも知れないから」
「ああ、そういう事ね」
母さんは納得したように頷いた。
これで許可は得たので、あとはその日が来る事を待っているのみだ。
◇
数日後。
遂に冬休みの日がやって来た。
俺は一人、ソワソワした気持ちのまま、この日を迎えた。
隣のあおいさんが、「私より緊張しているね」といたずらっぽく笑う。
そりゃ緊張くらいするよ!
あおいさんの両親に会い行く感じがする…………。
ん?
あおいさんの両親に会う?
それって、どういう事だ?
自分で自分にツッコミを入れる。
その日はゆみちゃんも久々に来てくれて、みおちゃんと四人で時間を過ごした。
「今日は、みんな大好きな――――ピザですよ!」
あおいさんが手のひらサイズのピザが載った皿を持ってきて、テーブルに置く。
「凄く美味しそう!」
「まだこれから沢山出来るから、遠慮なく食べてね!」
「「いただきます!」」
あおいさんが作ってくれる料理は、どれも美味しい。
食べなくても既に美味しい。
でもやっぱり、食べたいよね。
熱々のピザを手に取り、立ち昇る湯気に息を吹きかける。
少し冷まさせて、口の中に頬張る。
「ん~! 今まで食べたピザの中で、一番美味しいかも! 寧ろ、これでお店やったら流行りそう!」
ゆみちゃんはそう叫ぶが、全く同意である。
ただ、俺は食べるのに夢中で、頷いて返答する。
その時、
俺の足に何か重いモノが乗っかる感触があった。
「!? んほぉひゃ!?(みおちゃん!?)」
すっかり、『はいはい』が上手くなったみおちゃんが、俺の足元に来ては、俺の足を掴み、立ち上がろうとする。
「みお!?」
あおいさんも驚いて、みんながみおちゃんに注目する。
そして、みおちゃんは――――――
「おお! 掴み立ちだ!」
遂に初掴み立ちに成功したみおちゃん。
お母さん
まるで「えっへん!」と声が聞こえるようだ。
きゃっきゃー!
代わりに笑い声をあげてくれた。
「あ、あおいさん。そろそろ一日一回くらいなら離乳食を与えてもいいかも知れない」
「離乳食! もういいのかな?」
「うん。掴み立ち出来る頃から少し与えてもいいみたい」
「そっか! じゃあ、明日のお昼はみおの初めての離乳食を作ってあげよう!」
「そうだね。みおちゃん。ピザはまだ早いな」
ピザを美味しそうに見つめて声をあげるみおちゃんの頭を撫でてあげた。
◇
次の日。
冬休みの初日のお昼。
あおいさんはみおちゃんの初めての離乳食を作り始める。
初めての離乳食でおすすめは、間違いなく米だ。
野菜から始めるより、主食である米から始めた方がいいと言われている。
米はそのまま食べられないので、お
通称、10倍つぶし粥、と言われているお粥を作る。
実はこの離乳食となる10倍つぶしがゆって作るのが、意外と大変だったりする。
まず、普通のお粥を作る。
隠し味とかは一切入れず、強火ではなく中火でゆっくりコトコト煮込んだお粥を作る。
作り終えたお粥を今度は、裏ごし器を準備して、その中にお粥を載せる。
載せたお粥米を、今度はすりこぎを使って、ペースト状にすり潰す。
この過程が意外に大変だったりする。
すり潰すのは、俺が代わりにこなした。
すり潰したお粥米をみおちゃん用お椀に移して、今度は、先程作ったお粥の汁を少し入れて混ぜる。
これで10倍つぶし粥の完成だ。
みおちゃんを俺を股の上に座らせて、エプロンをかける。
何が起きているのか理解出来ていないけど、何かしてくれるのを本能的に察知しているみおちゃんは、楽しそうにしている。
ぬるくまで冷ました、みおちゃん用お粥を、あおいさんが小さなスプーンですくって、みおちゃんの口に持っていく。
暫くは小さじの半分くらいの少量で与える。
みおちゃんは、初めて口に今までのモノと違うモノが入って来て、驚いた表情を見せる。
赤ちゃんの「はっ!? 何これ!?」と言わんばかりの表情は、いつ見ても可愛らしい。
口に入ったモノをみおちゃんは味わいながら飲み込む。
「みおちゃん、どう? 美味しい?」
きゃっきゃー!
「もっと頂戴って言ってるみたいだね」
「そうだね。うちのみおもご飯を食べれる歳になったんだね~」
そして、俺達はみおちゃんに残り離乳食をたっぷり食べさせてあげた。
なんだか、あおいさんが目の前にいて、役得だった。
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