第26話 学園祭
夏休みが終わり、8月も終わりを迎え、9月が来た。
9月と言えば、そろそろ涼しくなってくる時期で、昼はまだ少し残暑が見られるけど、涼しい日もちらほら出てくる。
そして、俺達学生にとって、9月は大きなイベントは一つ待っているのだ。
その日はすぐにやってきた。
「あおいさん! そっちの準備は大丈夫?」
「うん! こっちはバッチリ! そうたくんは大丈夫?」
「何とかなりそう」
俺とあおいさんがやっているのは、教室を改造した
あおいさんが作るのは、『ホットケーキ』。
俺が作るのは、『紅茶』。
――――そう。本日は『学園祭』の日だ。
◇
夏休み直前。
うちのクラスでは『学園祭』で何をするかみんなで考えていた。
他のクラスなら、考えるのに色んな案が出たりするだろう。
なのに、うちのクラスは一瞬で終わった。
本当に一瞬。
「あおいが作ってくれるホットケーキを食べたい男子はいないか!?」
「「「「おー!」」」」
はい。
満場一致。
ゆみちゃんの策略により、一瞬で喫茶店が決まり、あおいさんがホットケーキを、俺が紅茶を担当する事になった。
他はそれぞれ役割分担して、宣伝係、店員係、出来上がった料理を運ぶ係、ゆみちゃんに仕切られるまま、秒速で決まった。
◇
隣では美味しそうな匂いが、厨房に改造した教室に充満する。
あおいさんが作ったホットケーキだ。
夏休みの昼によく作ってくれて、いくつか隠し味を足したモノを試食してくれていた。
その中でも、俺とゆみちゃんに絶賛だった『ふっくらホットケーキ』に決まった。
あおいさん曰く、作るのも簡単だと言っていたけど、あんなに美味いホットケーキを簡単に作れるのは、あおいさんだからかも知れない。
最初に出来上がった『ふっくらホットケーキ』が盛り付けられ、前に出される。
「凄い! 早乙女さんが作ったホットケーキって、お店とかに出てくるようなホットケーキみたい!」
あおいさんの作った料理を初めて見るクラスメイト達が唸り声をあげた。
匂いだけじゃなくて、見た目も凄くて、食べなくても味が分かるほどに、絶対美味しい。
「なんで一条くんがドヤ顔するのよ」
一人の女子がツッコミを入れる。
ま、まあ……そうだよな。
「そうたくんの紅茶も、ものすごく美味しいよ?」
あおいさんがフォローを入れてくれる。
「本当だ~、うちもよく紅茶飲むけど、こんなに良い香りの紅茶は初めてだよ! これってティーバッグなの?」
「もちろん、ティーバッグの紅茶だよ? そもそも使える金が決まっているし、どこでも買える普通のやつだよ」
「凄い! こんなに差が出るなんて、今度淹れ方教えてよ!」
「いいよ。あとで淹れ方教えるよ」
「ありがとう!」
クラスメイトが嬉しそうに、出来上がった『ふっくらホットケーキ』と『紅茶』を載せて、隣の教室の喫茶店に運んだ。
店になっている隣の教室から、ここまで聞こえるくらい「美味しい~!」という声が聞こえる。
その声にあおいさんも俺も自然とほほが緩む。
あおいさんと俺は、静かにハイタッチをした。
◇
「早乙女さん、一条くん。お疲れ様! 終わったよ!」
クラスメイトの言葉で、俺とあおいさんはやっと終わったと、安堵の息を吐いた。
三時間。
まさか……こんなに繁盛するとは思わず、途中でクラスメイトから列が出来たと言われ、人数がどんどん増えて途中で列を打ち切ったとの報告が来るほどだ…………まだ一時間以上残っていたのに……。
とにもかくにも、無事に終わったので、今度はクラスメイト達の分を作り始める。
先程、紅茶の淹れ方を見たいというクラスメイト達が俺を囲って紅茶の淹れ方を見守った。
「そんなに手間掛けるんだね。紅茶も凄く美味しいって、お客様達が仰っていたよ!」
クラスメイトの言葉に、俺も嬉しく思う。
あおいさんの料理に、少しでも自分で返せられる分は頑張ろうと思って、色々調べて学んだスキルでもある。
だから作る度に、どこかあおいさんに――――と思って作っている。
頑張ってくれたクラスメイト達の分が終わり、俺とあおいさんも自分達の分を作って、その場で椅子に座り食べ始める。
「やっぱり、あおいさんのホットケーキは美味いや」
「ふふっ、そうたくんの紅茶も美味しいよ? 何だか、こんなに沢山作ったからか、なお美味しい~」
「もうクタクタだよ。だからか、本当に美味しいね」
あんなにバタバタしてたのに、厨房を静けさが包む。
隣の教室からは、クラスメイト達の「美味しい~!」って声が微かに聞こえてくる。
作っていた時も、お客様達の声が聞こえて来たのに、クラスメイト達の声が聞こえると、少しだけ恥ずかしい。
どうやらあおいさんも同じ思いだったようで、俺達は何も言わず、顔を合わせて声を出して笑った。
食べ終わった頃、クラスメイト達から、ずっと作ってくれた俺とあおいさんは、片付けからは出て行けと言われて、俺達は母さんを探しに学園を回る事にした。
何処にいるか分からないので、ゆっくり歩きながら探す事にする。
「そうたくん! あれ見て! 屋台とかも出てたみたい!」
学校入口に並んだ屋台は、何処かのクラスで出したモノなのだろうね。
既に誰もいないが、残っている屋台の種類を見て回る。
お祭りとかで出ているような屋台だね。
「お祭りいいな~」
ボソッと呟くあおいさん。
お祭りか…………。
確か、今月に花火大会があったような……?
「そう言えば、今月末に花火大会あるんだけど、見にいく?」
何気なく言った言葉。
何となく自然と零れた言葉だった。
「えっ?」
あおいさんが驚いた表情で、俺を見つめる。
「えっと、みおちゃんも初めての花火を見れるだろうし、うちの家族でも行くと思うから、あおいさんも一緒に行かない?」
「…………私なんかが一緒でいいの?」
「寧ろ、一緒に来てくれたら嬉しい」
周りのガヤガヤした音の中、俺とあおいさんだけが時間が止まったように、言葉を交わす。
うるさいはずなのに、自分の心臓の音しか聞こえてこない。
彼女の答えが聞きたい。
そう思ってしまうのは、彼女と一緒に花火大会を楽しみたいと思っているからだろうか。
「うん…………私達がお邪魔じゃなければ、お願いします」
満面の笑みを浮かべて、そう話す彼女。
時が止まっているかのように、彼女の笑顔が俺にはとても眩しい。
ちゃんと答えを聞けて嬉しい想いと、彼女と一緒に楽しめるという嬉しさが込み上がって来た。
◇
「母さん~」
俺達はやっと見つけた母さんとおじさんに挨拶をする。
「みおちゃんを見てくれてありがとう」
俺は慣れた手付きで、母さんからみおちゃんを預かる。
疲れたようで、既に眠っているみおちゃん。
眠っているみおちゃんはぽかぽかしていて、夏は抱いているだけで大変だよね。
母さんとおじさんに挨拶を終え、俺とあおいさんはみおちゃんを抱いて、学園を散策する事になった。
「そうたくん。みお、重くない?」
「全然重くないよ?」
「そ、そっか」
そもそも抱っこ紐があれば、尚更軽く感じる。
慣れた校舎も、みおちゃんを連れてあおいさんと一緒に歩くと違うモノだな。
そのまま体育館に行くと、発表会みたいなのをやっていて、ダンスとかやっていた。
ダンスはやった事ないし、見た事もないけど、みんなが懸命に踊っているのを見ているとこちらまで元気が出る。
こう、胸の奥から熱いモノを感じる。
「――――――」
「ん? あおいさん、今なんか言った?」
「…………」
彼女は寂しそうな笑顔で、顔を横に振った。
そして、学園祭が終わった。
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