第51話 心(3)
『遅くなってごめんね。これから軽い検査を受けてくるからまた後で連絡するからもう少し待ってて』
通知の名前を二度見、三度見と疑いを重ねて理解した時には私の心臓が飛び上がった。
メッセージの『
起きて返信してくれるなんて……。
きっと喉も乾いてお腹もすいているはずなのにその優しさが嬉しくて、私は幸せ者だなってこの通知が実感させてくれた。
『全然大丈夫ですよ。お返事嬉しいです! 検査頑張ってください』
送ろうとする文を何度か確認する。やっぱり最後ににっこりとした顔文字を付け足そうかな。
久しぶりの連絡に、久しぶりの言葉に戸惑いながら送信ボタンを慎重に押した。
返信が来たのは日が暮れて夜ご飯を食べ終わるころだった。
『検査終わったよ。まだ経過観察は必要だけど大きな手術の予定とかはないから一安心かな』
経過観察、か……。
喜んじゃいけないって
原因不明の病。治療方法が定かじゃないというのは私も一緒だけれど、一緒なんだけど、歩夢先生の心臓の病は死を直結させる気がして心穏やかではいられない。
病の怖さはきっとその人にもう会えないかもしれないことなんじゃないかって、大切な人が歩夢先生が病になって実感した。
それまでは痛いから怖いとか、どうなるかわからないから怖いのかと思ってたけど、ここに入院しているほとんどの人がきっと死ぬことを考えてる。
……ほとんどって言ったのは脳裏にある枯れる病のせいだ。
うつ枯れ病患者、私も枯れてた時は生きることも死ぬことさえも考えられてなかった――。
私が体験したことならわかるけれど、いまだに理解できないのは心が枯れてしまう原因。
何が原因で、どうして枯れちゃうんだろう。
心がダメージを受けて心に余裕がなくなったあの時、病の引き金は何だったんだろう。
今と何が違うんだろう。
恋したこの気持ち以外に病が治る方法はないのかな……。
そう考えても検討はつかなくて、ただ呆然と部屋の沈黙の真ん中に座り込む。
テレビの中の大夢先生は考察の中で「自分に自信をもてなくなること」って言ってたっけ。
それを聞いた時、褒められやすい世界のデメリットを考えたけど、いい事ばかりではない気がした。
きっと悪いところに目を向けない世界になるんじゃないかって思っちゃったからだ。
社会のルールがあって、認識されてきた今までの日常も壊す方が簡単だけど、元に戻すのは難しいから政府も簡単に指示を出せないんだと思う。
この病が〝枯れる〟と呼ばれる理由は今までの世界が潤っていた証拠なんだと、私は強く感じていた──。
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