第50話 心(2)


「話し込んじゃってごめんなさい。ご飯食べてね。

 またお昼頃くるから」



 そう言いながら香奈恵かなえさんは立ち上がった。



「わかりました。食べ終わったら戻しに行きますね。届けに来てくれて嬉しかったです!」



 私がそう返すと香奈恵さんは「麗桜うららちゃんが頑張って悩んでるのも見ると私も頑張れるわ」と言って部屋を出て行った。

 大夢ひろむ先生とおんなじことを思うんだなぁと感じるとともに、ふと頭に浮かんだ『つながった感情』という言葉。

 お母さんと再会する前に大夢先生が私にくれた感情の連鎖のお話が、医療関係者の中にも、患者さんと医者の中にも成立することを、2人の言葉から知ることが出来たのだ。

 私にもいつかその時が来るといいなって、もっと誰かに影響を与えられる人になりたいなって思えた。

 がんばろうって強く思ってしまった。


 やる気が先走るからか、いつもよりも急いでご飯を口に運んで急いで食器を返しに行く。

 ペンを持ちたくて、遅れた分の勉強を取り戻したくなって仕方なかった。

 そんな強い気持ちで取り組んだらあっという間にワークが進む。

 ページをめくる音とペンが紙を滑る音が静かな病室を響き渡った。


 時計の針が3時間ほど進んだお昼ごろ。

 ペンを握る手が疲れてきて私はグーンと伸びをする。

 真っ白だった紙が黒く埋まるのはなんとなくすっきりして達成感を感じる。

 頑張りが見えることは自分にとってこれだけ頑張れたなって思えるし、わからなかったところをもっと頑張ろうと後押しになる。


 勉強が大変で頭を悩ませることも、学校に通っていた時はほんとに嫌だったのに、目的が見えることで勉強に熱心になれるからもっと明確な目的を持ちたい。

 行きたい学校についても私の中で固めなくちゃ。


 私12時になるスマホを見て、午後は進学先を調べようと意思を固めた。



 私はお昼を食べ終えて早速調べ作業に取り掛かった。

『看護師 資格 学校』と検索をかける。

 合格率や学費もデータがピンキリで、まとめるにも作業が多すぎるため私は1つ焦点を置いた。


 家が近いこと。


 少なくとも新幹線で家に帰れる距離、飛行機を使わない距離の学校に範囲を狭めようと思った。

 理由は簡単。お母さんとお父さんともう半年も離れて生活していること。そして、いつ、だれが死ぬのか分からないから、後悔しないためだ。

 私はこの病気、うつ枯れ病にかかって死ぬことがいつだって身近にあることを知った。

 だから、会える時に会える、歩夢あゆむ先生と優姫乃ゆきのさんみたいに会う時間を家族との時間を作りたいのだ。


 それが私の心で気持ちだから。

 まっすぐな、ちょっと欲張りな心にぴったりな進学先を見つけるために、私と画面とにらめっこをしていた時、私のスマホに驚きの通知が届いた――。



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