第47話 反射

 病院内に正午の鐘の音が響く。

 私は解いた問題に1個1個赤いインクを入れていた。

 求めた答えや使った数式は思った通りにならないところだってある。

 それが悔しいという気持ちだけでなく、頑張りたいという気持ちを持たせてくれる。

 でも私は1か所だけ理解にたどり着いていなかった。


 各単元の終わりの方にやってくる応用問題。

 自分の解答と問題の解説を見比べていた。

 なんでそんな式に……?

 にらめっこしても分からないその問題の解き方を私はスマホで調べていた。

 その画面に一通の通知が現れる。



麗桜うらら、元気にしていますか?

 今度病院に顔を出そうと思います。クリスマスが近いのでほしいものがあったら教えてください』



 お母さんからのショートメッセージ。

 私は返信に困って、ベッドに寝っ転がった。


 会えるのはもちろんうれしい。この病院まで遠いから無理してないかななんて子供ながらに心配してしまう。

 昔みたいに素直になれたら、楽しみにしてるねって言えたらいいんだろうけど。



 ショートメッセージは既読機能がないので、ぴったりな言葉をゆっくりと探していた。でも正解が分からなくて、わからなかった問題の答えの方が簡単で、気づいたらもう日が落ちていた。

 街のライトアップが病室の窓をきらびやかに反射してくる。


 そういえばクリスマスは冬の行事で寒色を想像してもおかしくないのに、浮かぶ色は赤や緑、白に金色。

 なぜだろうと疑問に思った私は、色の意味を検索にかけた。



 赤……尊いキリストの血

 緑……永遠の命・神の永遠の愛

 白……罪や汚れのない純粋無垢

 金……「光」や「王権」



 色ひとつひとつに意味の込められていることを知ると、ただのネオンだとは思えなくなって、ただの飾りとも思えなくなった。私は冷たい窓に手を置いて、その光に見とれた。

 きっと入院してなかったら、この窓映らなかったら、この意味を知ることもなかったんだろう思うと、運命ってこういうことなんだなって思った。

 この出会いは運命であって、偶然であって、奇跡なんだって。


 どんどん、どんどん入院してよかったなって思える私が、口元が緩んだ私が窓に反射していた。



『私は元気だよ。寒くなってきたからお母さんも風邪には気を付けてね。

 会えるの楽しみにしてる』



 自分自身と少し向き合えたら、素直な言葉が文面に現れていた。

 お母さんが病院に来たら、ここから見えるライトアップを一緒に見たいな、なんて欲張りなことを思って送信ボタンを押した。

 思わず視線を送った窓際の白いクリスマスツリーも浮かれているように見えた。

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