第46話 交差する恋心

「やっぱりわかっちゃうよね」



 頬に手を当てながら優姫乃ゆきのさんはそう言った。

 肌がほんのりピンク味を帯びたその顔は歩夢あゆむ先生への隠しきれない想いを物語っている。



「その、優姫乃さんはいつから好きなんですか? 歩夢先生のこと」


「わからない、かな。気づいたら好きになってたし、気づいたら輝いて見えたから」


「そう、ですか」



 優姫乃さんの言葉に私はチクリと胸を痛めながらも私は笑みを見せた。



「ねぇ、麗桜うららちゃんは? いないの? 好きな人」



 私は口から出そうになる思いをぐっとこらえて「いないです」と答えた。

 下唇から少しだけ血の味がしてくる。



「そうなの? 麗桜ちゃんかわいいからモテそう!」


「そんなことないですよ!」



 私は思いっきり否定をする。

 恋なんて今まで、歩夢先生を好きになるまで知らなかったほど私は恋愛にうとい。

 この気持ちだって歩夢先生に貸してもらった小説がなかったら気づかなかったし……。

 そんな思考が頭をごちゃごちゃにして勢いのついた返事になってしまったのだ。



「そうかな~。

 でも麗桜ちゃんのこと好きな男の子居そうだな。

 かわいいし、謙虚で素敵だから」



 優姫乃さんの誉め言葉に私は「ありがとうございます」と返しながら少しだけ反抗心を持った。

 歩夢先生に好かれないなら意味ないのに、なんて。

 もちろん声には出さなかったけど。

 胸に絡まったそんな思いが私の気管を詰まらせて、私はゴホゴホと咳をする。

 優姫乃さんはそんな私に「大丈夫?」と声をかけ、机の下の冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出してくれた。

 あぁ、優姫乃さんみたいになりたい。

 気遣いができてほめ上手で、優姫乃さんみたいな看護学生になって、歩夢先生のような患者に寄り添える人になりたい。

 ……こんな時にまで歩夢先生。

 私は歩夢先生への想いでいっぱいいっぱいだ。


 歩夢先生に会えなくて勉強ができなくなるし、誰かといても一人でいても歩夢先生のことばかり考えてしまう。

 だって今の私がいるのは歩夢先生のおかげだから。



「私、優姫乃さんみたいに素敵な人になります」



 この言葉は私の気持ちを隠した優姫乃さんへんの宣戦布告。

 気持ちだけなら負けないって思ってるから。

 歩夢先生に近づくために私だって頑張るから。



「私でいいのかな」



 なんて優姫乃さんは微笑んだけど、優姫乃さんはだから意味があって、優姫乃さんだからこそ追いつきたい。

 いつか追い抜かして、歩夢先生に魅力的だって思ってもらえるように。


 この後、優姫乃さんは授業に向かうため部屋から出て行った。

 気持ちの整理がついた私は、深呼吸を落とし、ノートを開いてその上にペンを滑らせていた。



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