第45話 白
「
「
ドアから覗いたのはターコイズブルーのコートを羽織った優姫乃さんで、その手には小さな箱を持っていた。
「
あとこれ!」
優姫乃さんはそう言いながら手に持った箱から中身を取り出した。
それは白くてもさもさの――。
「クリスマスツリー!?」
「そう、時期的にいいかなって。
せっかくのクリスマスだから少しでも楽しんでもらえたらいいなって思って」
私は「ありがとうございます」と言いながら、窓際に置かれるクリスマスツリーを見つめる。
「よし、これで良し」
「あの、優姫乃さんは白が好きなんですか?」
真っ白なクリスマスツリーを見て、疑問に思った私は口から言葉を落としていた。
「そうなの!
漢字は違うけど名前に〝ゆき〟って音が入ってるからなんか昔から好きで」
「そうなんですね。白くてほんわかした感じが優姫乃さんに似合ってます」
私の言葉に優姫乃さんは口角を上げて「ありがとう」と笑う。
そして、そのまま窓に話しかけるように優姫乃さんは昔話を始めた。
「昔ね、小学生のころだったかな。
歩夢の家と私の家で植物園に行ったことがあって、その時に白い花を指さした歩夢に言われたの。
『優姫乃はこの花に似てる』って。
その花はラナンキュラスって花だったんだけど、バラのようにいくつも重なった花びらが印象的な、真っ白でかわいらしくて一瞬でその花を好きになったのを覚えてる」
瞳を閉じて幸せそうな顔をみせる優姫乃さんはとてもきれいで、よほどきれいな花なんだろうなと想像して聞いていた。
「大人になってラナンキュラスの花言葉を調べてみたの。
それが『とても魅力的』とか『華やかな魅力』とかで、歩夢の目に少しでもそう見えていたらいいなって思って。
ほら私、歩夢より年下だし、甘えてばっかりだから歩夢の目にそう映ってたら、移れるようになったらいいなって思ったんだ。
……それからずっと好き」
好き、か……。
優姫乃さんが発した〝好き〟という言葉に私は目が覚めた。
優姫乃さんはずっと前から歩夢先生を特別に思ってきたんだって。見せる表情と色づいた頬がそれを物語っていた。
「歩夢先生を好きになったんですね」
「えぇ!? あ、や、違うよ!?
白が、好きなの! そう、白が!」
確信をつく私の言葉に慌てる優姫乃さんの姿もかわいくて、私は少し胸が痛んだ。
こんなに素敵な人に敵うわけないって。
「隠すの下手ですね」
私はきっと作り笑いが上手だ。
ずるくて、嘘つき。
ずっと前から、最初から歩夢先生に嘘をついて、離れたくなくて――。
白、純粋でまっすぐな優姫乃さんがうらやましかった。
魅力にあふれた彼女をずるいと思ってしまったのだ――。
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