第43話 一緒に

『そっか〜。やらないといけないことは僕もたくさんあるから一緒に頑張ろう!

 なんでもいいから困ったら相談してね』



 どうしてかわからないけど、画面に映った文字をなぞっただけなのに歩夢あゆむ先生の声で聞こえた。

 だから頬が緩んでしまった。

 この感情を抑えて返信を書くためには時間を置かなければならない。

 そう思った私は先に箸を進めた。

 あぁ、ご飯の味がしない。胸がいっぱいでなんとなく、理由がないのにおいしい。

 どうしたらいいんだろう。

 歩夢先生の〝一緒に〟って言葉が私の胸をつかんでギュッと離してくれない。

 もう無理、そう思った私は歩夢先生宛てにこうメッセージを送信した。



『歩夢先生となら頑張れます! ありがとうございます』



 隠しきれていない好きという感情に私はおぼれそうになって、ごまかしたくなって、ご飯を食べて寝る準備をして、小説を開いた。

 今日借りてきた小説に没頭した。

 歩夢先生が貸してくれていた本と同じ作者さんの本で、中身は恋愛ものだった。

 甘くて、でも簡単にいかない苦みがあって……。

 息を忘れるような場面もあって、その衝撃というスパイスがなお話を面白くしていて。

 ――あっという間だった。

 気が付いたら就寝時刻の5分前で、時間が経つ速さにびっくりして布団を被った。



「失礼します」



 昼よりも小さな声で部屋にやってくる香奈恵かなえさんに、私は顔を見せる。



「こんばんは」


「あら、起こしちゃった?」


「いえ、これから寝ようとしていたところです」


「そう、それじゃあおやすみなさい」



 あたたかな香奈恵さんの声に「おやすみなさい」と返して私はまぶたを閉じた。





 朝、私は時計を確認して体を起こす。

 あ。

 私は昨日のままのスマホを見て、慌てて充電器に刺す。

 慣れてないけど、前は必ずと言っていいほど寝る前に充電していたから、なんか不思議な感じ。

 ぐーんと天井に向かって伸びをして、いつも通り窓の外を覗いた。

 朝の街にぽつぽつと人影が見える。

 その姿に、未来の、学校に向かう私を重ねた。




 ――勉強しよう、朝ごはんまで。

 そう思って顔を洗って気合を入れた。

 昨日の復習をしてから次の学習に進む。

 まだ新しい記憶だから間違えたところも正しく解きなおすことができた。

 それが嬉しかった。



「おはようございます、佐々木さん」



 声を掛けられるまで、私はドアが開いた音に気が付かなかった。



「あ、おはようございます」


「朝から勉強? 偉いわ。

 体温のチェックに来たの。はい」



 渡される体温計を脇に挟んだ私に香奈恵さんはあるものを渡してきた。

 私が「え」と声を漏らすほど、それは嬉しいものだった――。



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