第41話 死んだのは
私は読み始めた本の1章目で区切りをつけて、ぐーんと腕を伸ばした。
本をテーブルの上に置いて外に視線を送ると、ピロリンとスマホが鳴る。
マナーモードにし忘れたスマホに手を伸ばし、通知の内容を確認すると、そこには『歩夢』の文字があった。
私は思わずスマホを放る。軽くジャンプしたスマホは布団の上にぽすっと落ちた。
私はもう一度そのスマホに手を伸ばし、見えた文字にスマホごと胸を押さえた。
何だろう、でも嬉しい!
そう思いながら通知をダブルタップして開いた。
『検査結果出た?』
『はい。とりあえずまだしばらく入院します。
学校に行く準備と、病気の判明のためなんですけど、やることがいっぱいです』
私はこれでいいかなと文字を確認して送信ボタンを押す。
そわそわしながら返事を待ってしまうので、気を紛らわせるために本を開く。
だめだ、全然頭に入ってこない……。
あぁ、早く返事かえってこないかな。
今まで直接話していたからこの待ち時間がこんなにも私をもどかしくさせるなんて思ってもいなかった。
はぁ……。私のため息が部屋に響いて、でもそれに返ってくる音はなかった。
外は相変わらずの雪だし、毎日同じ景色でつまらなく感じてた。
そんな時、私の部屋のドアがガチャッと鳴った。
「佐々木さん、失礼します。
診断結果に挟み忘れてしまった書類です」
「これは――」
やってきた
「最近はじんましんや発作もなく、ほとんどが治ったと考えられます。
不安になることも減ったのではありませんか?」
あ、ほんとだ。
以前だったら未来が怖くて、わからない未来に不安を感じていた。
人の笑顔が怖くて、うまく笑えているか不安だった。
でも最近は不安はないとは言えないけれど、未来の不安をなくすために勉強したいと思ったり、検査結果が出る前は〝でもよくなってるから〟って自分を励ましていた。
自分の中で前向きな姿が増えてきているのは確かだろう。
「以前は不安なことばかりでしたが、最近は大夢先生も香奈恵さんも優姫乃さんも歩夢先生も、たくさんの人が私に寄り添ってくれて、少しずつだけど不安が解かされるようで……。私1人では立ち止まっていたのに、今の私がいるのは周りの人のおかげだって思っているんです」
そうあの日、本を読んでくれた歩夢先生のおかげ今の私は生きている――。
あの日、家に来てくれた大夢先生のおかげで、あの日〝看護師〟という言葉を聞かせてくれた優姫乃さんのおかげで、どんな症状になってもお世話してくれる香奈恵さんのおかげで……。
今考えれば、生きたいも死にたいも思えなかった私はもういない。
うつ枯れ病で死んだのは私じゃなくて〝意志が弱くて不安の多い私〟だった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます