第40話 院内探検

「そんな顔しないで。さみしいだけよ」



 香奈恵かなえさんの言葉に私は「え?」と声を漏らす。



「頑張って退院してほしいけど、お別れが見えてきて私はさみしいのよ。佐々木さんは本当に厳しい状態から回復してくれて、私もたくさん得るものがあったから」


「そう、ですか……」


「看護師としては失格よね。離れがたいから退院してほしくない、なんて。

 でも、佐々木さんを応援したい気持ちもあるの。ほんとに複雑……。

 だからこそね、看護師になってここに勤務してくれたらなって思うのよ」



 ふふふ、と笑う香奈恵さんに私は「はい!」と元気よく返事をした。




 その後は雑談を交わしながら病棟の中を探検するように歩いた。

 産婦人科だとか外科だとか、眼科に耳鼻科に、皮膚科……。私はこの病院内に約9ヶ月いるけれど、施設内のことは全く知らなかったため、少し楽しかった。

 1階にはコンビニもあって改めて大きい病院に入院していたことを知る。



「ここ! 今日はここを教えたかったの」



 香奈恵さんが指をさした場所を見て、私は驚きを隠せなかった。



「図書室……?」



 確認するように放った言葉に香奈恵さんは「そう、患者図書室よ」と言った。



 香奈恵さんがそのまま中に向かうので、私も少し後ろをついて歩く。

 たくさんの本棚とぎっしりの本。そして紙の匂い……。

 まぎれもない図書室に私は目を目を輝かせる。



「ここの本、借りれるのよ。今日は佐々木さんのカードづくりと、利用について教えようと思って」


「嬉しいです! 本好きなので」



 そう、私は歩夢あゆむ先生に本を借りて、読んでいくうちに本が好きになっていた。それに病に不安を持った時、感情が動く確認を物語に触れてしていたから、自然と本を読む習慣がついていた。


 ……あれ?

 私はここである1つ疑問を浮かべた。借りっぱなしの本のことだ。

 こんなに充実した図書館があるのに、私の部屋に置いてある本は歩夢先生個人の本のはず……。

 なんでわざわざ……?


 不思議に思いながらも、私は香奈恵さんにカードを作ってもらい、5冊の本を選んで借りた。



「期限は1週間ね。読み終わったら声かけてくれるかしら。一緒に来ましょう。

 あと、こっちも紹介しておくわね」



 香奈恵さんに呼ばれる通り、私は奥の方の棚に向かった。



「ここに参考書とかあるから勉強したかったら使ってみて。

 図書室の中にも机があるけど、勉強は佐々木さんの部屋でやってくれるかしら

 点滴を外したばかりだからナースコールの近くにいてほしくて」


「わかりました」


「じゃあ部屋に戻りましょうか」



 こうして私は香奈恵さんと一緒に部屋に戻った。

 部屋について私はすぐに本を開いて、物語の世界に没頭したのだった――。



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