第38話 検査結果 × 取り引き
食べ終わって部屋でまったりと過ごしているとき、部屋のドアが開いた。
時間的に
「こんにちは。佐々木さん」
「こんにちは。
私は話を聞くことが少し怖かった。大夢先生の左手にある書類が検査結果だと思ったからだ。
――私の頭には、家に帰った時に大夢先生が言った『退院させる気はありません』が浮かぶ。どういう意味で言ったのかまだ分からないけれど、その真相を聞くのも、想像するのも私は嫌に感じていた。
「検査結果はこちらにまとめたのですが、単刀直入に言いますね。
今回の結果では、佐々木さんの退院はありません」
大夢先生によってはっきりきっぱり伝えられたその言葉は私の表情を暗くさせた。
「理由をお伝えしますね。まず、回復傾向だということ」
「え……?」
私は思わず声を漏らした。てっきり回復ができていなくて、うつ枯れ病だから退院できないんだと思っていたから。
「回復傾向ということは回復しきっていないんです。
と、言いたいのですが、回復のラインを見定めることが未だできておらず、〝完治〟とされた方でも再度かかってしまうことが多いんです。
なので、もう少し様子見をしようと思いました。点滴は取ってみようと思います」
「そう、ですか……」
なんとも言い難い私の状態に私は視線を落とした。
「……佐々木さんは〝取り引き〟を覚えていますか?」
私は忘れるわけない、あの4つの取り引き内容を思い出しながら「はい」と返事をする。
「僕は3つ目の〝医師として必ずうつ枯れ病の症状や発症理由を解明すること〟と、4つ目の〝研究支援のため、保健所から学校を通して入院期間中は学校を公欠とし、回復したら私は必ず学校に戻ること〟を達成させたいのです」
「え……?」
私は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
だって、3だけじゃなくて4のことを挙げられるは思っていなかったから。それにどういう意図で挙げられたのか、私にはさっぱり見当がつかなかった。
「3つ目は世界のために、4つ目は佐々木さんのために。
ここに滞在し続けるということは、僕はうつ枯れ病の研究を続けることができます。
そして、佐々木さんは医療現場や専門知識を知ることができるんです」
「え!?」
私は目を思いっきり見開いた。何を言い出すかと思えば、まさか、ね……。
「現在佐々木さんは高校の勉強も遅れてしまっていますし、看護師を目指すなら医療について知る機会は大切だと思ったんです。
だから、退院するのは3か月後の2021年3月にし、4月からは高校3年生として学校に行くようにしましょう」
ありえないと思った。――ありがたすぎると思った。
私の中でもすぐの退院は心の準備が追いついていない。退院したい気持ちに追いついていなかったから。
でも勉強していいって、勉強しやすい環境を作ってくれるとは思っていなかったから……、なんというかいいのかな。こんなにしてもらって。
そんな思いを浮かべていたこの時の私は少し眉を下げて笑っていたと思う――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます