第34話 連絡先交換
「歩夢、入るよ」
「
歩夢先生は変わらず酸素マスクと点滴をしていた。
その痛々しい姿に私の胸が痛む。
「あれ?
最初から常語で話すオフ状態の歩夢先生にキュンとしながらも私は仮面をつけるように普段通りに笑う。
「あ、いや、特に理由はないんですが――」
「私が連れてきたのよ」
私の肩に手をのせる優姫乃さんが、えへんと言わんばかりの顔をしていた。
「え? 2人ってそんなに仲いいの?」
「そうよね? 麗桜ちゃん」
「あ、はい」
突然の話を振られ、つっかえながらも返事をする私の腕に優姫乃さんの腕が絡む。
「ほらね! だって連絡先も交換してるもん!」
「えぇ! いつの間に……。仲良くなりそうだなぁとは思ってたけど、まさかそこまでとは……」
「私がすごいから!」
「え? 今なんか言った?
てか、麗桜ちゃん困らせちゃだめだよ。僕とかお兄ちゃんなら振り回されても拒んだり理解あったりするけど、麗桜ちゃんいい子だから拒まずにずっと困ってそうだし」
2人の会話から仲の良さを感じて、私の心はチクチクと痛んだ。
いいなぁとうらやましい気持ちと、私ももっと近い関係でいたかったと思ったのだ。
「麗桜ちゃん困ってない? 何かあったら言うんだよ。僕が怒るから」
「あ、はい。大丈夫です!」
「あ、そうだ。優姫乃と連絡先交換したんだよね? じゃあ僕とも交換しようよ」
「え?」
私は耳を疑った。ほんとにいいのかと、望みすぎて幻聴が聞こえたんじゃないかと思うと「だめかな?」と再度確認される。
「ダメじゃないです! 交換、しましょう」
「やった~」
こうして私の連絡先の欄に『歩夢』という文字が刻まれる。
私はその文字をなぞるように何度も目を通して、確認する度、胸が熱くなった。
「いつでも連絡して! 僕、今動けなくて暇だからさ。よかったら話し相手になってよ」
「も、もちろんです」
さらなる予想外の提案に私の頬は緩んでしまう。
夜も話せるんだ……! やった!
心の中の私がガッツポーズをしていた。
「あとね、これ見てほしくて」
歩夢先生が指さしたのは机の上の黄色い紙だった。
私はその紙を持ち上げた。
「中見ていいよ」
歩夢先生の言葉に私は二つ折りにされた紙の内側を開き見る。
中はいろんな検査項目が書いてあって、それぞれに検査結果とコメントが記されている。
「右下の先生の手書きの記載があるでしょ? 『経過観察有』って。
今回の検査で僕はこのまま経過を見ることになったんだ。
だから手術とかにはならなかったよ」
歩夢先生の落ち着いた口調とホッとした顔に、私の心は自分のことのように飛び上がる。
でも、その嬉しい感情は優姫乃さんの言葉によってかき消された――。
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