第33話 考える
「私は考えることは大切だと大夢先生と香奈恵さんに教えていただきました。でも、今の私は考えることより、悩むことが多いです。つまり、〝どうすれば〟が多く、〝なんでだろう〟が少ないんです。
目の前の〝どうすれば〟が多すぎて――」
どうすれば退院できるのか。
どうすればうまく笑えるのか。
どうすれば学校に戻れるのか。
どうすれば看護師になれるのか。
どうすればうつ枯れ病がなくなるのか。
どうすれば世界が変わるのか。
どうすれば私は変わるのか。
どうすれば歩夢先生は治るのか。
どうすれば……、歩夢先生が私を好きになるのか。
頭に浮かぶたくさんの〝どうすれば〟に私は悩まされるばかり……。
「〝なんでだろう〟って考えることはとても大事かもしれません。でも、大夢先生が大事だと言っていた『考えて答えを自分で導き出すこと』は悩むことでもできます。〝どうすれば〟にも自分なりの答えが出せるんです。
それに、〝なんでだろう〟って考えられる人は〝どうすれば〟が解決している心に余裕のある人だと思うんです。
人は時間がない。どんな時間も死に向かっている。思っているよりも先は短いかもしれない。
だからたいていの人は〝どうすれば〟と悩むだけで時間が過ぎていってしまうと思うんです。
でも、こうやって人と話すことで自然と考えさせられることがあります。
なんとまとめればいいかわからないけど、私は1人だったら悩んで、時間を流してしまう人生だったと思います。
入院がきっかけで最近は少しずつ大切なことに気がつけています。
人とかかわる、これも人生の大切な一部で、考えるための手法なんだと思います。
長くなってしまいましたが、そのっ、どう、ですか……?」
「あはははは」
「ほんとに高校生? すごいね!
いや~、〝考えること〟から〝生きる〟までたどり着くなんてね。
すごく悩んで、頭を使うことが癖になってるのかな。
あ、でも枯れていた時もあったんでしょ? そう考えるとすごい回復じゃん!
若い子にこんな驚かされると思わなかったなぁ。
私はまだまだだ。あはは」
そう言って優姫乃さんは立ち止まった。
「ちなみにね、私が考えていた麗桜ちゃんの返事の予想は『考えることは怖いです』だった。
若いのに病にあって怖がっててもおかしくないと思ってたから。でも強いのね」
笑顔を見せる優姫乃さんは歩夢先生の部屋のドアに手をかける。
そしてドアの隙間から先の光がこぼれた――。
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