第29話 死ぬこと、生きること(1)
『うつ枯れ病死者数』
1番上の検索結果にそう書かれていて、私は恐る恐るそのページを開いた。
『2020年12月14日現在。
うつ枯れ病患者数:8,232(人)
累計患者数:76,669(人)
累計死者数:66,775(人)』
なに、これ……。
膨大な数にも驚きを隠せないけれど、それよりも死者数の多さに息を飲まずにはいられなかった。
1度かかれば治らないということを数字で実感し、私は怖気付くようにスマホを落とす。
その物音に
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。
――あの、うつ枯れ病について調べたら死者数が出てきたんですが……」
「……残念ながらそれだけの人が日本で死んでいます」
暗めの声色に、ゆっくりな大夢先生の言葉は、私の耳に跡を残す。
「回復が難しい病、なんですね」
自分で繋いだ言葉に現実を理解させられる。
私は、私は──。
治ったのかはまだ診断結果として出ていないけれど、回復傾向ではある。
でもこれは私の頑張りではなく、歩夢先生のおかげだ。
歩夢先生と出会っていなければ、私はもうすでに死んでいたかもしれない。
今考えれば、死にたくない。
枯れていた時は感情が動かなかったから、死にたくないとは思っていなかった。
──私はこれから死ぬのが怖いと生き続けなければならない。
看護師になったら患者さんが死ぬところを見ることになるかもしれないのに、私はその恐怖に
もっと早く知りたかった。
もっと早く……死にたかった。
生きることを選んだ、感情を持つと決めた昔の私が、今の私を苦しめた。
どうして生きるのだろう──。
死にたい。
頭の中に浮かんだ言葉を私は無理やり飲み込んだ。
病院に戻った私は、自分の部屋に戻って考え込んだ。
……看護師は辞めた方がいいだろうか。
でもお母さんたちにもう言ってしまった。
色んな感情に満たされた私の心は、助けを求めてナースコールを押した。
少しして
「失礼します。
佐々木さんどうしましたか〜?」
明るく仕事をしている香奈恵さんに私はどう話を切り出そうか迷った。
「……香奈恵さんはなんで看護師になろうと思ったんですか?」
「そうね……。1番の理由は誰かの役に立ちたかったからよ」
香奈恵さんは微笑みながらそう言い、その後、暗い表情を見せる。
「でもね、看護師は思った以上に大変だった。
私は患者さんの前で笑っていなければならないし、〝嘘も方便〟というように真実以外を伝える時もあるから……」
見えない苦労を曖昧な表現で伝えるそれは、余命宣告や状態の悪化等を指すと私は察する。
「でも、看護師になって、人が命を繋ぐと分かったの」
この香奈恵さんの深い言葉の意味は、私の想像をはるかに超えるのであった──。
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