第25話 治療
「佐々木さん。佐々木さんは今の僕の話を聞いて胸を痛めましたね?」
その言葉を耳にして、自分の心がキュッと締め付けられていることに気がつく。
指摘されないと気づけなかった私は「はい……」と答えながら、なんで気づかなかったのだろうと考える。
「それが人のつながりだと言いたいんです。
ほら、あそこにいる高校生カップルが見えますか? 2人とも素敵な笑顔をしていますよね。多分、どちらかが先に笑って、つながった感情により、もう1人も笑顔に誘われたんだと思います。
だから、だから、佐々木さんも笑ってください。
見える笑顔に微笑んでしまいましょう?
身構えずに、そうなれたらいいなぁって思ってほしいのです」
最後の言葉で口角を上げる大夢先生に、私は心をわずかに緩めた。
大夢先生の優しい笑みに私は自分を許せたのだろう。
「息、できてますね。よかった」
そう言ってさらにクシャっと大夢先生は笑った。
……歩夢先生に似ている気がした。胸がさっきとは違う苦しさに包まれる。
こっちの病、恋の病は息もできるし、生活への支障はないけど、頭の中が浸食されるようでどう対処したらいいかわからない。
「何か考え事ですか」
大夢先生は私の表情をよく読み取り、こう続けた。
「考えることはいいことです。自分で納得する解決方法は自分自身も成長につながりますし、その後の人生でも自身で解決方法を見出すことができるのですから。
だから僕はそのきっかけ作りがしたいのです。少しでも早く治るように」
大夢先生の真剣な表情に、私は尊敬の眼差しを向ける。患者さんのことを1番に考える大夢先生をカッコイイと思ったのだ。
私は担当の先生が大夢先生でよかったと考える。
「素敵なお医者さんですね」
「いえいえ、まだまだ
こんなに時間がかかってもうつ枯れ病の回復方法が見えてきませんし……」
あ……。私が言わないからだ。
私が回復するタイミングで感じていることを伝えないから──。
でも、恋をしたからです、なんて通る理由なのか……?
「大夢先生」
らせん状にぐるぐるとする感情を、喉で少しまとめながら私は今までの事を説明しようとした。これが治療方法に近づいたらいいと思って。
私の身体は正直者へと近寄りたいと思ったらしい。
言葉が全くまとまらないのに、私は今までの私の事を全部大夢先生に話してしまう。
その話、長くまだ未完の物語は、世界を変える可能性を秘めていた──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます