第26話 未解決

大夢ひろむ先生。私、回復した心当たりがあるんです……」



 私の言葉に大夢先生は目を見開いてノートパソコンを開く。



「教えてくれますか? 何でもいいので。悲劇を断つきっかけになるかもしれません……」


「はい。

 私が枯れてご飯が食べれなかった状態から回復したのは、歩夢先生の本のおかげなんです」



 私は歩夢あゆむ先生に読んでもらったあの絵本のことを説明した。



「歩夢が読んだ本によって感情が揺らぎ、枯れた状態、無気力状態から戻れたんですね……?」



 少し不思議そうな顔をする大夢先生は腕を止めない。カタカタとパソコンを打ち続けていた。

 私は止まらない腕を見ながら「はい」と返事をする。



「感情ですか……なるほど。

 他にはありますか?」



 少し迷った。これ以上話せば歩夢先生が好きなことがバレてしまうから。

 でも、頭の中で話さなければならないと理解していた私はこう言った。



「私、歩夢先生に特別な感情を持ったんです。そしたら世界が変わるようでした。歩夢先生のためにって考えたら行動できるようになりました。

 ……ごめんなさい。その、もっと早く言えなくて……。

 歩夢先生が大夢先生の弟と知ってから言えなくて、でもずっと言わないとって思ってて――」



 自己処理の出来ない感情が涙になって頬を流れる。

 私を見た大夢先生はタイピングの手を止めた。



「佐々木さん、大丈夫です。

 気持ちは何となく分かります。言える環境にしなかった僕も悪いですから」



 私は涙が止まらなくて、返事を出来ずにいると大夢先生は私の心を折りにかかる。



「でも、歩夢への感情は勘違いだと思った方がいいです。むしろ勘違いにしてください」



 悲しくて、苦しくて、現実を突きつけられたみたいで……。

 私は頭を横に振って対抗するくらいしか出来なかった。



「佐々木さん。はっきり言って歩夢は、いつ死ぬか分かりません。

 歩夢を心のり所にしても、歩夢のためにがんばっても、歩夢が死んだら佐々木さんは元のように戻ってしまう……。

 それではいけないんです。佐々木さんが笑顔になる未来が確定しないといけないんですよ!」



 必死にうったえるような大夢先生。

 言っていることはわかる。だって17の高校生だもの。

 でも理解しても納得できないことはある。納得してこの先ずっと後悔するかもしれない。

 どちらの選択も私が不幸になる可能性がある。

 それなら歩夢先生を想っていたい。


 ここまで考えて、その結末に私は笑った。

 私は幸せにはなれないって。

 そう思ったら涙が止まった。

 生きる意味がまた薄れてしまったからだ。

 涙を枯らしたうつ枯れ病をうるおすには、一体どうすればいいのだろう──。



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