第23話 人の笑顔
夕方、私の部屋に大夢先生がやってきた。
「佐々木さん失礼します。
約束していた通りご実家に向かおうと思うのですが、いいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
私はそう返事をしてベッドから降りた。
「これ、安藤看護師からです」
大夢先生が私にブランケットを渡してくれる。
「ありがとうございます」
「マークシートも受け取りましたよ。明日診断結果を出しますね」
私は息を飲んで、その後「はい」と返事をした。
診断結果。前の結果は酷かったから、やっぱり怖い。また知らない病名が出てきたらどうしよう、なんてあの時の衝撃を思い出す。
でもその心の震えは冬の寒さで上書きされる。
「やっぱり外寒い!」
「あはは。昼間も寒かったですか?」
大夢先生が無邪気に笑うから、私は少し恥ずかしくなって「あ、はい」と控えめな返事をする。
「夜に向かってどんどん寒くなるので、ちゃんと暖かくしないとですね」
そう言って大夢先生は車のドアを開けてくれる。
私は「ありがとうございます」と言いながら乗り込んだ。
久しぶりの車に私は感動していた。
狭く落ち着く空間と、見える外の景色が私のワクワクを加速させる。
「これ、大夢先生の車なんですよね?」
私は大夢先生に向かって確認するように質問を投げた。
大夢先生は運転席でシートベルトを締めながら「そうですよ」と柔らかく返事をしてくれる。
「きれいですし、とってもいい匂いがします!」
「あ、これだよ」
大夢先生は液体の入った青い四角いものを指さす。そしてこう続けた。
「
「優姫乃さんが……! 素敵ですね!」
「いいセンスしてるよね。僕をイメージして専門店でブレンドしたんだって言ってた。
こうやって人のことを考えて行動できる優姫乃だから自慢のいとこなんだよ」
大夢先生の言葉に私は目を見開いた。
青いケースとすっきりとした香りは確かに大夢先生に似合っている。
私の中で優姫乃さんの好感度がぐんぐんと上がる。
「それじゃあ、出発するよ。30分くらいかかるからね」
私はハイブリッド車の静かなエンジン音と大夢先生の言葉に「はい」と返事をして、車がゆっくりと走り出した。
窓の外は雪が降っていて、クリスマスを連想させる赤や緑のライトアップに街が染まっていた。
そう、楽しそうに買い物袋を持つ一般人も……。
この人たちは違う。
私の頭の中でそう聞こえた。
苦労したことがなく、幸せで、人が怖いと感じたことがない人だと……。
考えただけ、私は息がうまく吸えなくなっていった。
こうなってしまった私に気づいた大夢先生は、対応ではなく、私のために治療をするのだった――。
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