第22話 人の目
「佐々木さん失礼します。
ご飯食べきれましたね。これからトレーを返して、外に行こうと思うのだけどいいかしら。
今日は最初だし、外も寒いから少しだけ屋上に行ってみようと思うの」
昼ご飯を食べた1時過ぎ頃。
私は「わかりました」と返事をする。
「何か着るものある? 今まで外に出たことなかったし、ないと思ったからブランケット持ってきたんだけど」
「あ、お借りしてもいいですか?」
私は香奈恵さんから「もちろんよ」という言葉とともにブランケットを受け取る。
よく見ると、ボタン付きのブランケットだったので、私は肩から羽織るようにかけた。
「それじゃあ、給食室に行きましょうか」
香奈恵さんの言葉で私は返さないといけないトレーを持ち上げ、廊下を歩いた。
廊下は歩いているだけでもたくさんの人とすれ違う。
私は周りの人をついつい気にしていた。
この人より私は笑えない、だとか、自分と比べて人を見てしまうのだ。
でも、前よりはひどくない。以前は笑みをこぼす人が全員敵に見えて、胸が苦しくなって、ましてや体中が
最近は人の笑顔を見るとこう思ってしまう。この人の笑顔は人を想う笑顔だと。
――なぜか歩夢先生の笑顔に重なって見えるのだ。
特に、患者さんと歩いているご家族であろう人や花束を持ったお見舞いのために足を運んだであろう人の笑顔は、どこかホッとした。
思えば、私は人の笑顔そのものが嫌いじゃなかった。
ただ、うらやましくて、私に持っていないものを持っている人が
だから今の私は以前より成長できているのかもしれない。
そう思ったら自然と頬が緩んだ。
給食室にトレーを返して屋上に向かう途中、香奈恵さんは私に向かって
「一年ぶりの外は緊張する?」
「はい」
「12月の寒さなんて覚えてないわよね。今年は本当に寒いのよ」
風を感じる。
言葉と同時に香奈恵さんが屋上のドアを開けたのだ。
「さむい……!」
ちらちらと舞う雪と外の空気に私は興奮しながらも、凍えていた。
「佐々木さん」
呼ばれた私は香奈恵さんの方を向いた。
「外、出れたわね。おめでとう」
「っ! ありがとうございます」
寒いと言っている全身の細胞が少し穏やかになるほど、その言葉は私に優しかった。
外の滞在時間はほんの数分だった。
寒かったけど、外に出ることができてよかった。
未来は不安もあるけど、こうやって1つ1つがまたできるようになるのは楽しいことだと思った。
だから私は夕方の予定が楽しみで仕方がなかった。
──早く家に帰りたいと思ったのだ。
そう、思っていたのに……。世界は嬉しいや楽しいなどの感情に
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