第14話 電話
――そして今に至る。
私は今も病室を出れずにいる。
もちろん、何度か外に出てみようと思った。
体が受け付けることなんて、なかったけれど……。
月日は過ぎ、本来なら高校2年の冬の12月だ。この間、大夢先生に「進路とか考えてる?」と尋ねられた。
私は頭にはてなが浮かんで黙り込んでしまった。
そんな私に大夢先生は「焦らなくていいから考えてみてね」と笑ってくれた。
――あれからずっと考えている。学校には戻れないかもしれない。社会にも出れないかもしれない。
でも親に迷惑なんてかけられないし……。
親……。今、お母さんとお父さんはどうなっているのだろう。
私は気になって大夢先生に聞いてみることにした。
「大夢先生、私のお母さんとお父さんは今どんな感じなのでしょうか……」
「だいぶ元気になっていますよ。電話、かけてみますか?」
思わぬ提案に私は困惑をする。
掛けてもいいものだろうか、私のことなんて忘れているかもしれない。
すごく迷った。
でも私はお母さんとお父さんの声が聞きたかった。
「いいですか、掛けてみても」
「もちろんです。僕の携帯でよろしいですか?」
私は「はい」と言いながらスマホを受け取った。
画面には〝佐々木さんのお宅〟と書かれている。
私は深呼吸をして、電話マークをタップした。
プルルルルル……プルルルルル、ガチャッ。
「もしもし、……お母さん?」
「その声は、
「!! そうだよ、分かるの……?」
「分かるに決まってるでしょ! どうなの、状態は」
お母さんにそう言われてなんて答えたらいいか、分からなくなった。
治ってきてるよ、も、元気だよ、も自信を持って言えなかったからだ。
「治るようにがんばってるよ」
前向きな言葉を言った途端、胸が痛くなった。
それを隠すように「お母さんは?」と問う。
「よくなったよ。今は少しずつだけど働いてるし、あ、そうそう。お父さんはハローワークに通って働き口をさがしているの。
また一緒に暮らせるといいわね」
普通の生活……。考えただけで頭が痛い。
何か私が変わるきっかけがあればいいんだけど。
そんなことを考えながら「うん」と返事をする。
その後は「体に気をつけて」とか「早く会えるといいね」とかを話して、電話を切った。
「大夢先生、携帯ありがとうございました」
「いえいえ。お話出来て良かったですね」
「はい、元気そうで何よりでした」
「佐々木さんも良くなります。絶対に」
大夢先生のその眼差しが、私に自信をつけてくれるようで、さっきの前向きな言葉が本物になったらいいなと思ったのだ。
でも頭の隅に〝歩夢先生と離れたくない〟という文字列が浮かんでいた──。
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