第13話 出かけたい

「じゃあ、出かけましょうか」



 翌日の昼前、歩夢先生が私にそう言った。もちろん、私の健康を確認してからだ。

 私はベッドから降り、病室から出ようとしたとき、私は膝から崩れ落ちた。

 ――足が震えて立っていられないのだ。



「麗桜ちゃん……!? 大丈夫!?」



 歩夢先生は私の隣に膝をついて私の顔を覗く。

 どんな顔をしていたのだろう。

 歩夢先生の次の言葉から、今の自分が一体どんな状態なのか不安になった。



「顔色が悪いね……。調子悪かったのかな、ごめんね」



 悲しそうな歩夢先生の顔に「そんなことないです」と言いたかった。でもそれを言う前に、歩夢先生は私の体を持ち上げた。


 !?!? お姫様抱っこされている……?



「せんせっ……!?」


「今ベッドまで運ぶから」



 そう言って歩夢先生は私の体をベッドまで運び下した。



「麗桜ちゃん、どこか悪い?」


「ううん」


「じゃあ、何か不安なことあった? 外はまだ怖い……?」



 外。外か……。

 私を殺した場所。世界で幸せみたいな顔をした人たちがあふれている場所。成功が確立されていない場所。……歩夢先生に会えない場所。

 考えた。外のこと。

 嫌だ。気持ち悪い。怖い。怖い。怖い怖い怖い……。



「はい……」



 私の頬に暖かい水が流れた。



「そっか。そうだよね。

 ごめんね、気づいてあげられなくて」


「いえ……。私もこんな風になるとは思っていなかったので。

 すみません」



 私が涙を袖で拭くと、歩夢先生は私の頭を撫でた。



「謝らなくていいんだよ。麗桜ちゃんはすごく頑張っているし、僕が麗桜ちゃんと外に出たかっただけだから。

 だからもっと回復して、怖くなくなったら一緒に外に出よう?」


「……はい」



 涙がまた流れた。せっかく拭いたのに、さっきよりも多く流れて、あごから掛布団の上にしたたれた。



「じゃあ、約束。指切りしよう」



 歩夢先生が差し出してきた小指に、私は手を伸ばし小指を重ねる。



「また挑戦しようね。今日はゆっくり休んで」


「はい。ありがとうございます」



 涙でびちゃびちゃになった顔に、歩夢先生がティッシュペーパーを渡してくれる。



「大夢先生に今の現状を報告してくるからゆっくりしてて。また戻ってくるから」



 私は「はい」と言いながらティッシュペーパーで顔を拭き、ふぅ、と一息ついた。

 窓の外に出てみたい、歩夢先生と一緒なら、と思いながら――。

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