第7話 不安
『診断結果
・うつ枯れ病
・強迫性障害
・パニック障害
・社会不安障害(SAD)
・不安神経症
・自律神経失調症
・心身症』
なに、これ……。見た途端、私の頭は真っ白になった。
固まった私の背中を、香奈恵さんが撫でるように優しく触れる。
「佐々木さんは不安になると、症状が出やすい病気に多くかかっているみたいなの。だからこれを見ても不安にならないで?
必ず治るわ」
「……なんでそんなことが言えるんですかっ!」
こう叫んでしまってから、私は思わずハッとする。
そんな情緒の乱れた私に、香奈恵さんはこう言った。
「不安になるのもしょうがないわよね。ごめんなさい。
でもね、これら全部うつ枯れ病のせいで併発した病気なの。だからうつ枯れ病さえ治れば佐々木さんは以前と同じように過ごすことが出来るのよ。
大夢先生は佐々木さんのうつ枯れ病を必ず治すわ。私もそのお手伝いをする。
だからそんなに心配しないでね」
香奈恵さんの言葉は私を完全に安堵にさせるものではなかったけれど、私は治ることを待つことにした。
ただ私の身体は待ってはくれなかった。
昨日のように過呼吸になったり発作を起こしたり……。私の身体は思うようにはいかず、病に侵されていった。
でもそれだけならよかった。ついには自分でご飯を食べることさえ出来なくなったのだから。
これが枯れ始めたサインだった。
私の身体は日常的に重たくなり、ついには動けなくなった。大夢先生は私の症状に頭を悩ませていた。
──そんな春だった。4月1日。私は17歳になった。
そして新規卒業者、一般に新入社員と呼ばれる人がこの病院にも勤めに来た。そう、
歩夢先生は4月から私を担当してくれていたが、私はこの時の記憶をよく覚えていない。
ただ一方的に話しかけられていたと思う。私が受け答えできないほど枯れていたから……。
そんなある日、歩夢先生は私の部屋にたくさんの本を持ってきた。そして、とある絵本を私に読み聞かせてくれたのだ。
『そこにある大切なもの』
たしか、そんなタイトルだった。
主人公のクマさんが大切なものを探し求めて森から出てみる話。
でも、知らない場所では大切なものが見当たらなくて、トホホとしながら家に帰るんだっけ。そしたら大切な友達のリスさんが居て、今のままでいいんだって思う話だったと思う。
あの時の歩夢先生の優しくて朗らかな声に私は少しだけ安心して感情が揺れ動いた。
そう、それが私のきっかけだった。
枯れていた心を揺らされて、まるで心臓を弾ませて血液を流すように、明日に向かうための、咲くための水を歩夢先生に与えられた。
あの日のほんのきっかけから少しだけ前向きになれて今、1年の年月を経て、完治に向かっているのだ。
もちろん、この1年の年月は上手くいくことばかりではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます