第6話 検査結果

 この、入院初日の出来事は、すぐに大夢先生に伝達され、香奈恵さんは夜になっても私に付き添ってくれた。データをとるためにも、安全を保つためにも、と言って。

 私は香奈恵さんの言葉に甘え、いつもと違うベッドで何も考えないようにして眠ったのだ。




 ──そして、翌朝。

 私は信じがたい今の状況を説明されることになる。



「佐々木さん、おはようございます。河野です。

 検査結果が出たのでお伝えに来ました」



 そう言って私の部屋に来た大夢先生の目にはクマができていた。



「佐々木さんの症状から〝うつ枯れ病〟だと診断致しました」


「うつ、枯れ病……?」


「はい。最も最近の精神病であり、世に知れ渡るのもすぐでしょう。

 この病気は去年11月から広まり始め、今ではかなりの患者数がいると見込まれているんです」



 いると見込まれている……? いるんじゃなくて?

 私が疑問を浮かべながら口を開かずにいると大夢先生はこう続けた。



「うつ枯れ病はうつ病にとても近く、それこそ枯れ始めるまで気づくことが出来ないケースがほとんどなんです。

 僕もまだ確信を持つことが出来ないのですが、佐々木さんはいつ枯れてもおかしくない状況だと判断しました」


「枯れる……、枯れるってなんですか?」


「……しおれたように、死ぬ。そう言われています。

 うつ枯れ病のいちばん怖い症状は枯れるように死ぬこと。生きる気力をなくしていつの間にか息を引き取ってしまうことです……」



 大夢先生は焦点の合わない目を地面に送った。虚ろな目はその悲惨さを表現するようで、私の胸はキュッと締まる。私に募る不安や怯えがそうさせたのだ。


 静かな時間が流れた。



「……でも治すと決めました。必ず、この悲劇の連鎖を止め、潤いで世界を満たす、と。

 そのためにも若い人の患者をどうにかしないといけません。佐々木さんでの研究はそれが目的です」


「でも、なんで若い人なんですか?」


「若い人はメンタルが弱かったり、目先のことで精神が簡単に崩れやすいんです。若い人っていっても10代後半から20代後半を指していて、経済をこれから先、回すことになる人を指しているんです。

 この病は世界恐慌による連鎖だと考えられています。つまり世界恐慌を乗り越えるために必要な労働者を確保しなければならないのです」



 大夢先生の言葉からこの世界の創りを教えられるようで、若年層がどれだけのものを背負っているのかを実感させられる。経済を回すことが最善な解決策だなんて、そう考えると、世の中の活動のせいで人が死ぬ世界のおかしさに私は震えた。

 黙ったままの私に大夢先生は「詳しい診断書を出してきますね。ゆっくりしていてください」と言葉を残し、私はぽつんと病院のベッドで座り込んでいた。


 しばらくして私のところに香奈恵さんがやってきて、大夢先生が作った診断書を渡された。それを見た私は思わず息を飲んだのだ──。



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