NO171/生き様
ヒロト2023年令和5年8月13日((月)
オレはズルい。自分のことは、嘘はないけど面白可笑しいところばかり書こうとしている。腹の底のドロドロした部分はやっぱり自分の中におさめて、世の中に晒せない。
ケンジの日記は正にリアル日記だから、腹の底の底の裏っ側まで自分を見つめ、書き表している。
これはこの交換日記には書くことを躊躇うようなことが、実はたくさんあるという事。その微妙なところはギリギリ避けてこの日記を展開して来た。
ケンジは(少々ややっこしい表現だけど)当時の現在は、プレス工として、初めて会社員という安定した生活を送っている。はたしてこのまま若い頃から嫌っていた平凡な人生を重ねていくのか?
このところ、この交換日記は滞りがちだけど、ケンジの日記は読み進めてはいるんだ。
これは書いていいのか?ケンジをここまで晒していいのか?ケンジをおとしめることになりはしないか?悩むよね。
じゃ、こんな交換日記辞めちまえばいいじゃねえか!一層悩むよね。
でもケンジはオレに日記を託した。格好悪いところも含めて俺だから、俺って奴がいたってことをどっかに残して欲しい、そんな声が聞こえてくる。
わかったよ、ケンジの日記をそのまま写すのはリアル過ぎる部分もあるので、なるべくさらっと、でもケンジの底の部分も、ケンジの日記を読んでいるオレなりにまとめてみるよ。
ケンジの不器用だけど、何かをしたいという意欲は凄い。
浅草コント修行時代からの腐れ縁のヤナギさん。振り返れば、ジローさんとのコンビ解消後、ヤナギさんらとコミックバンドを目指し、ギターの練習、ギターはいいものじゃなきゃと言われ、それを信じてローンで25万円のギブソンを買う。これはのちに3万円で売った。バンドはデビューすることなく消滅したがヤナギさんとの関係は続く。ケンジはヤナギさんに、競馬や夜の遊びで振り回される。仕事もヤナギさん紹介の水商売に入り、常にヤナギさんの手の内にいる感じ。サラ金、ヤナギさんにも借金がかさみ、苦しみ抜いた挙げ句、ヤナギさんとの決別を決心。逃げるように全国行商の職に就いた。
その後は紆余曲折の末借金を完済し、人生初めてと言っていいような、自分の為に自分で稼いだ金を使う。台湾旅行だ。かなり不純な動機の旅ではあったけど、いろいろ得て帰ってきた。そして素敵な台湾の女性が別の男性と踊るのを見ているだけだったケンジは、社交ダンスを踊れるようになりたいと、教室に通い始める。更になかなか自分の気持ちが伝わらなかったその台湾女性と、中国語で通じ合いたいと講座に参加。また昔からの夢である物書きを目指して、シナリオを勉強するグループにも入る。その他、地元の自治会の役員、もちろんプレス工としての技術の習得、毎日のように残業をして給料を稼ぐ。
多少のお金の余裕もできるようになった。ケンジ、30代半ば、もちろん男としての欲望もある。シャイなケンジは彼女はなかなか出来ない。新宿のお店に通うようになる。ひとりのホステスさんに夢中になる。店外でも会うようになる。高級な食事をして、高級なバッグなどのプレゼントもする。培った文章力を駆使して長文のラブレターを繰り返し送る。自分を良く見せたい、気に入ってもらいたいと服装に金をかけ、百万円のかつらも購入。何回かのデートの記述はあるが、やがて彼女のことは日記から消えた。
このプレス工としてのケンジにも、ヤナギさんの影は忘れた頃に現れる。ケンジは会うことはしても、一線を画することはできていた。
そんな数年が過ぎていく。ダンス、シナリオなども続いてはいるが、だんだんと中国語の習得に比重が増えてきた。中国旅行をしたいと言っていた筈が、突然、中国留学するとなった。いや、ケンジには必然なのかもしれないね。曲がりなりに30代の平穏な生活を支えてきたプレス工の仕事を辞めて旅立つのだ。平凡なんかじゃない、頑張れケンジ!
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