NO153/ケンジ、故郷に帰る

ケンジ1986年昭和61年1月21日(火)

今日は、夕方から公民館において、女優和泉雅子の講演会が催されるというので、現在時間に余裕のある私であるから早速足を運んでみた。講演会などというものは、今まで一度も行ったことがないので、果たしてどんなことをしゃべるのだろうか、という好奇心もあり期待して行ったのだ。演目は「私の北極点」ということで、昨年和泉雅子が女優という職業柄からはまったく想像もつかない、冒険家まがいの北極旅行をした時の体験談を語るものであった。惜しくもあと百六十キロで北極点に到達するというところで、大きな氷の割れ目に遭遇し、北極点に立つことを断念して帰って来るまでの経緯を、スライドを交えて興味深く聞かせてもらった。経費が一億三千万円かかったこと。その金を集めるのに行商をしたり、会社廻りをしてスポンサーを探したこと。金は集まらなかったが、スノーモビルや防寒服やらテントやらいろいろ装備類に関しては結構協力が集まったということ。そういう準備段階の苦労話から、北極の氷の上を進むのにでこぼこした氷をぶち割りながら、ソリを引っ張って行くこと。一歩踏み間違えたら即北極の海の中へ潜ってしまうような危険な氷と安全な氷のあること、飲食できる塩分の含まれていない氷と海水そのものの氷とがあること、その他色々な北極の風景の説明があり、結構面白かった。ただ一つ質問したかったことがある。行程の途中でトイレに行きたくなった時はどうするのか?もちろん聞けなかったが、機会があれば聞きたいものだ。以上!


ケンジ1986年昭和61年1月25日(土)

昨夜はこの隣組の新年会で、隣組の付き合いなど一度もしたことがなかった私であるが、母は病院へ泊まりがけで勤めている身であり、兄もとんとそういう付き合いには疎いという関係で、仕方なく重い腰を上げたという訳である。

とにかく生まれて此の方、この大久野の羽生に籍を置いているにもかかわらず、高校を出て以来この家に居なかったも同然の私がそういう地域のコミュニケーションの場に出るというのだから、その決心も並々ならぬものがあった。こんなことは普通の大人だったら誰でも簡単にこなす付き合いであるのだろうが、そんなことを一大決心でもしたように大層に考えねばならぬ私の方が欠陥人間なのだかも知れない。そう思ってとりあえず成り行きに任せるという感じで出掛けた。夜七時から公民館前の宮田屋で行われたその会場の一室に入って行くと、子供の頃イタズラをしてたしなめれた覚えがある近所のおじさんおばさん等の顔がずらり並んでいる。その子供の頃のイメージだけで、すでに気後れを感じるくらいであった。会は裏の宮崎さんのテキパキとした司会で進められ、先ずはじめに今年四月からの隣組新役員を決めるということで、順番から行くと今年は栗原さんの番であるが、引き受けてもらえますね、という提案が宮崎さんの方から出た。実のところ、私は前から母にこのことは知らされており、うちは母も兄も家を留守にしていることが多くて、組長を引き受けてもやっていられないからうまく断ってくれということであったのだ。しかし隣組である以上、その一員として果たさねばならぬ役目であり、隣組七軒が交代でやっている役でもあるから、一軒だけ、うちだけがやらないで済むということにはならないのはわかりきった理屈で、私の腹の中では、一応自分の家の状況を説明した上で、尚やってくれということであるならば引き受ける覚悟で臨んだ。案の定、宮崎さんや坂下さんには母の方から電話があり、できれば組長を他の家に回してもらいたい旨を頼まれていたということであったが、そのお二方にしても七軒全部の了解を得てうちを組長から外すなどという交渉は言い出しずらそうであった。無理もない、どう公平に見ても、うちの母の要望は身勝手なものにしか受け取れないのだから。そこで私は予定通り我が家の状況を説明した後で、その雰囲気を読んで取り、あっさり引き受けることにした。この四月からは、どうせ母も兄も組長の仕事などできぬであろうから、私が腹をくくって一年間務めねばなるまい。田舎の隣組のことであるから、さりげなく普通にやってのけようじゃないか。以上!


ヒロト2022年令和4年12月18日(日)

ケンジは80万円は盗まれはしたけれど、その前にサラ金とヤナギさんからの借金を短期間で返した。借金を作ったことは感心しないけれど、ひとりで東京を離れてただただ働いて返したことは、若いからとはいえ大したことだよ。

そしてケンジには帰る場所がある。幼い頃から親しんだ山と川がある。おとうちゃんおかあちゃん兄妹と過ごした家がある。気がついていないだろうけど、それだけで恵まれたしあわせなことだと思う。

そこに帰ってきたんだね。まずは少しゆっくりしたら。

ところで自分は、日曜日は出勤のため6時24分の電車に乗る。早朝ということで寝ている人が多い。でもその寝方が問題だ。きっと前の日が土曜日なので朝まで飲んじゃったのかな。足をおもいっきり伸ばして寝てるオッサン、ちっちゃく前屈みに丸くなって寝ているオネエチャン、長々と座席3人分使って横になっているオニイチャン。それはまだかわいい方なのだ。ホームにおもいっきりリラックスしておやすみのお兄さんがいる。誰かが呼んだのだろう、駅員さんが二人、車椅子を持ってやって来た。声掛けても体叩いてもびくともしない。またこの人、体がデカい。駅員さん二人掛りでなんとか車椅子に乗せてどこかに連れて行った。

また別の日曜日、またホームでおやすみの人がいる。今度はおねえさん、わざわざベンチの脇で直接ホームに正座して土下座のように寝ている。この場合、行儀がいいと言っていいのでしょうか。やっぱり駅員さんが来て車椅子に乗せて連れて行った。

電車内に戻ろう。ある時オニイチャンが大股広げて寝ている。その足元にスマホが落ちている。周りはみんなチラ見はするが知らん顔している。この電車の終点の駅、乗り換えするのだがオニイチャンを起こそうと肩を叩いた。びくともしない。時間がないのでスマホを太ももの上に置いといた。また落とさなきゃいいけどね。

そして今日、デジャ・ビュのように男の人が寝ている。オッサンだ。足元にスマホではなく、今度は分厚い黒革の手帳ならぬ財布が落ちている。危ないなあ。周りの人はやっぱりチラ見している。終点の駅に着いた、起こそうと思ったらすぐ近くに座っていた30代のおねえさんが起こそうとしている。おまかせした。

そう言えば面白いカップルがいたなぁ。7人掛けの座席いっぱい使い、お互い足の裏を向けあって体を伸ばし爆睡している。と思いきや、ある駅に近づくと突然女の方が寝たまま男を蹴飛ばし始めた。男はたまらず座席から落ちかかりながら起きた。女もガバッと起きあがり二人はもつれるように開いた電車のドアからホームへ出た。そしてドアが閉まる寸前女だけまた車内に戻った。ホームには呆けたような、現状を理解できない顔をした男が立ち尽くす姿が、電車の動きと共にゆっくりと後方に流れて行った。女はというと、また同じ座席にまるで自分のベッドのように、ブーツを床に脱ぎ捨てまた深い眠りに落ちていったというお話です。

まぁそんなことより、今夜はいよいよサッカーワールドカップ決勝戦!幸い明日は仕事は休み!午前0時キックオフだけど最後まで見れるぞ!アルゼンチン対フランス戦!絶対ものすごい試合になる!メッシ選手が自ら最後のワールドカップと言っている!メッシのプレーをリアルタイムで見ることができる幸せ!楽しみダアッー!!!!!!


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