NO135/オカリナ響く葬儀
ケンジ1977年昭和52年3月22日(火)曇り
今朝まで日の出町に帰っていた。妹の結婚相手のオヤジさんがわざわざ山形から本人と一緒に出て来るというので、私も立ち会うために帰ったのだ。オヤジさんは色が黒くていかにもお百姓さんといった感じの実直そうな人だった。酒は一滴も飲まないとか。全然顔に似合わないの。結婚相手本人も酒は付き合い程度であまり飲まないとか。体は大きくていかにも酒を飲みそうであるのだが、こちらも意外であった。
しかし、妹にはもったいないぐらいのいい相手である。結構な縁であった。結婚式は兄貴がアフリカから帰ってからということになったが、その前にかたいれとかで妹と何ヵ月か暮らしたいというので、妹が山形に行くのは5月か6月頃になりそう。その辺は妹の意志によるところだ。しかし嫁に行くなんてのは思いのほかあっけないもんだね。
さて、昨日は夜立川でヨシブーと会い、久しぶりに人生について女についてその他いろいろ話し込んだ。ヨシブーも相変わらずのヤツだなァーと思った。
ヒロト2022年令和4年9月2日(金))
妹さんの旦那さん、俺会ってるよ、ケンジ。
お前さんの葬式の日にね。
ケンジの言う通り、実直で優しそうな人だった。妹さんともいい感じのご夫婦でした。思えば、日の出町の実家で旦那さん親子とケンジが顔合わせした時から44年後なんだね。
火葬場でケンジと最後のお別れの時、突然静かな館内にオカリナの音色が響いて来たんだ。誰が吹いているのか振り返って探したら、部屋の隅で妹さんの旦那さんが吹いている。もう何回も火葬場でのお別れを経験したけれど、こんなことは初めてだった。曲名は今ちょっと出て来ないけれど、とてもきれいな曲で心に滲みる響きで、もうあちこちすすり泣き、俺も泣かされちゃったよ。
やけに上手だなぁと思ったら、後でオカリナの先生をやっているんですと、ご親戚の誰かが教えてくれた。
ケンジ、お前の葬式、いい葬式だったよ。
この様子書いたことあったっけ?繰り返しになったらごめん、聞いてくれ。
前の日、危篤の知らせをくれたのはお隣の家のキョウコさんだった。ケンジのスマホを見て俺に連絡してくれたんだ。キョウコさんは、昔からケンジのお母さんと仲良しだったとのこと。一人で自宅療養中のケンジ、町からのヘルプの方もいたけれど、親身に面倒を見てくれていた少し年下の方だ。後からキョウコさんに聞いたけど、お前はありがとうを言えないヤツだったらしいね。これはお前の昔からの性格だね、日記を読んでいるとわかる。キョウコさん、ケンジの心の中は感謝でいっぱいだったと思います。勘弁してね。
俺はラインでクラスの皆に伝えた。俺は仕事中で行かれなかったけれど、何人かは駆けつけ、夜遅くまで見舞った。そして翌日の2021年8月11日に亡くなったんだよ。
葬式を自宅でやるということを、初めて経験したかも知れない。俺が日の出町のケンジ宅に着いたとき、妹さん夫婦や親戚の方数人、我が2Cクラスメイト数人、キョウコさんが準備をしていた。葬儀社などの手配は、キョウコさんが全てやってくれたらしい。ケンジの日記の高校時代に出て来た、学園紛争のバリケード封鎖の中にいたヤマシタもいろいろ奔走してくれたらしい。
葬式は地元に伝わるやり方を略式化したものだった。和室のベッドに穏やかに、でも少し黄疸の出ているケンジをお棺に移し、そのケンジの体のまわりに紙で作られた白装束や頭に付ける三角のヤツ、ワラジ、笠、そして三途の川の船頭さんに渡す紙の銭などを、近しい人から順番に少しずつ置いた。
そして、2Cクラスの女子からもお供えされた花々をケンジが埋まるぐらい皆で入れた。
それが儀式一切だった。なんかよかったよ。
さあ、出棺だ。部屋から玄関へ、何故か担ぎ手に俺が葬儀社の人から指名された。力があるように見えたのかな?まあ、ヨシヒロには無理かも知れない。玄関はどうしても狭い。後ろ側を一人で持つ形になってしまった。重いぞケンジ。でもここで落としたらシャレにならない。ケンジが起きちゃうよ。(起きるもんなら落とした方がよかったかな)
俺は頑張った。外に出ると近所の人たちが大勢見送ってくれている。田舎はいいなぁと思った。シンプルな霊柩車に乗せ、少しの間、クラクションをならし、山の中の斎場に向かったのでした。
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