NO101/郷ひろみとアカデミー賞のメダル

ケンジ1974年昭和49年12月3日(火)

11月30日から今日まで日の出町へ帰っていた。もう向こうは枯れ葉と土の匂いで覆われていた。山々を見渡せば、そろそろ紅葉もおしまいとみえて、冷たい北風になびいて寂しく揺れている枯れ葉や、もはや揺れる枯れ葉もない木々が目立った。しかしやはり郷里の冬はいい。それに昨日は久し振りに雨が降り、冬の訪れの感をより一層深くさせてくれた。


ケンジ1974年昭和49年12月7日(土)

あっー目が痛い。どうも機械暖房というのは、私の神経質な眼にはよくない。今日は千葉県は八千代市まで本番で行って来て、帰りに日テレ学院へ寄って来たのだ。そこでとある日テレ学院の講師の人からいろいろ話を伺っているうちに、あの部屋の環境に合わない私の眼がクシャクシャしだしたということなのだ。

さて、その話を伺った人というのが、今度私らが19日にホテルオークラでコントをやらしてもらう時、司会をやる人だという因縁がある人なのだが、その人の人柄が、私の今まで経験してきた人物という眼鏡をかけてみると、Nさん、Kさん、 Yさんといった人たちと類似するのだ。何かオトコ気で、がんこで、自己中心的という印象があるのだ。もちろん日テレ学院の講師をやるぐらいの人だから、話は切れるし、なるほどと思うこともおっしゃる。そして何よりも精力的である。

しかし、私は今までの経験から、何か私の心の中に、それを寄せつけないもののあることを感ずる。Yさんにしても、私はどれだけ、幾度となくあの人を偉いと思ったか、尊敬したかわからない。でも結局はどんな立派な理論をを述べる人でも、その持つ本性というものがどんなものか、ハッキリ掴めないような、実際の行動を通して何か納得できないような人は、最後にそれが出るということを知った。

今夜会った人も、私はそんな人の一人のような妖気を感じ取ったのだ。だから私はあの人のことをほんの一部にしか聞く耳を持たない。これは決してあの人のことを悪人だと言っているのではなく、あくまで私の肌がそうさせることなのだ。

けれども、こういう人の話でも何でも、たまに強烈な個性を持った、アクを持った人たちの話を聞く、またはいっしょに話をするというのは、私の心の内部の、また新しい、より発展的な刺激剤となって非常にいい。私の心は反発することによって進歩するのかも知れない。とにかく、今はコントに全力を注ぐ時だ。


ケンジ1974年昭和49年12月9日(月)

さて、さっきニキログラム270円のみかんを四日間ぐらいで食べるつもりで買って来たのだが、もう既に四分の三を食べてしまった。

やはりあると食べちゃうのだ。

しかし、余計な金は銀行に預金しておいたって、どうせ金利より物価上昇率の方が高いのだから、食い物ぐらい、ケチケチしないでバクバク、バランス良く買って食うことに決めた。金なんてもったいねェ―と思ったら使う時がなくなるよ!


ヒロト2022年令和4年6月22日(水)

言ってる事はわかるけど、みかん1、5キロは、食い過ぎだよ。


ケンジ1974年昭和49年12月11日(水)

あっー!私はいったい、何回挫折すればいいの。いったい何度、地獄へ落ちればいいの。

もうまいったよォー!

今度のホテルオークラでやる為に、今日まで私が必死に力を入れてきた、ヤクザと刑事のコントが、今日米村先生に見てもらったら、

「全然面白くない」とのことだった。「遊びが多すぎる」というのだ。結局このコントはやらないことになった。

何か、今まで張っていた心の支えが、スッーと抜けてしまったようで、何も考えつかない。人生、一直線にはいかないものだろうけど、それにしても辛苦辛苦で進まにゃならんとは、こりゃー人生大変なものだ。この苦しみを報いてくれる日は、いったい、いつ来るのだろう。

でも私は、その日はきっときっと来るの信じます。その時の喜びは、それまでの苦労を反映して苦しんだ分だけ、大きいもののような気がする。あっー若者は、何回も転び、何度も落っこちてェー、そして成長するのだと信ずる。


ケンジ1974年昭和49年12月12日(木)

明日はスターアクション本番で大阪行きだし、もうそろそろ本年のスケジュールを完了しようとしている。大阪では、剣道のコントをやることになっているし、頑張ってやって来よう。

そんな今日は、スカッと青空が広がり、例の屋上と講堂を使っていつものような稽古。今回の剣道のコントは完全にジローの演出に任せた訳で、私のイメージとかやり方とはずいぶん違う面や、やりにくい点も多いが、とにかくジロー君のイメージを可能な限り最大限に発揮するよう頑張らねば!せめて今年最後の本番ぐらい、客に笑ってもらって、気持ち良く年を越したいもの。持てるものを全て出す。それ以外にはない。


ケンジ1974年昭和49年12月14日(土)

今は本当は15日の午前1時半過ぎなのである。昨日、大阪でのスターアクション、本年最後の本番を終え、さっき最終の電車で帰って来たのだ。

さて、大阪ではとうとう私らのコントの出番はなくなってしまった。最後を笑いで締めくくることはできなかった。残念であった。

そんな私らとは裏腹に、今日の本番では、まだ二十歳にもならない小僧っ子の郷ひろみとかいう歌手の暴発的迫熱人気ぶりを見せつけられてきた。郷ひろみの一挙手一投足に会場の一千五百人の歓声が湧き震える。正にパニック。想像を絶する狂気の世界を垣間見てきた。さすがだヨ!私もこう言われたい。


ヒロト2022年令和4年6月22日(水)その2

今年のスターアクションは終わっても、これからホテルオークラが待ってるじゃないか。ケンジの欲しかったやれる場所がある。存分にやったれ!

ところで、久々にこれだ!と思った出来事があった。

ロシアで、20年あまりに渡って言論の自由を訴えてきたメディアのリーダーであるドミトリー・ムラトフ氏は2021年ノーベル平和賞を受賞した。このたび、そのメダルをオークションに出品し、なんと日本円で140億円で落札された。そしてその全てをウクライナの子供たちの為に、とユニセフに託すという。

以前から、名声や名誉なんてものは、ろくに役に立たないと思っていたけれど、こういう使い方があるんだと、衝撃を受けた。それにしても、落札者も凄すぎる。

メダルを介した支援活動であることは理解できるけど、140億円とは、、、

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