NO96/コント「ジロケンのけんか」

ケンジ1974年昭和49年10月31日(木)

明日の午後二時にはもう東京駅から福井に向けて出発である。とにかくコントがんばるでェー!今回は根性と機敏さで勝負しようと思う。福井から帰るとすぐその足で日の出町の方へ帰る予定なので、しばらくこの日記からもご無沙汰するかも知れない。しかしその間もより充実した日々であることを確信する。

とにかく私はやる以外にない。燃える時は今だと思う。燃えて燃えて、長嶋やクレイの上を行くようがんばる。


ケンジ1974年昭和49年11月2日(土)

今日のスターアクション、初めて二千円というギャラを即金で貰って、アトラクションのコントをやらせてもらった。

今思っても、その気恥ずかしいというかあまりの失敗にむしろ恐怖感を覚えるぐらいなのだ。とにかく、幕前が思ったより狭かったということもあるが、立ち回りがメチャクチャだった。マイて行けと言われていたものだから少々焦りがあったし、間をとる余裕を欠いていた。終わったあと、正幹さんから「笑いが少ないなァー、今日のは面白くなかったぞ、今度リハーサルの時、もう一度見てみよう」と言われ、ちょっと落胆した。

しかし私らは、そんなことで挫折してはいられないのだ。挫折はいつでもできる。今、私らのもっとも努力せねばならないことは、そういう人たちの批判を受けて縮こまるのではなく、むしろ、それを真正面から受け、より強く、耐え、成長していくことだと思う。

よってここでは、つい私の小心さが出てしまう傾向を反省し、「何、コントなんてェーのはやろうと思えば何処ででもできる」という、大胆というか厚顔というか、そういうでっかい心を持つということが肝要である。とにかく、すんなり男一生の道が歩めるというのは味気ないし、そんなもんは浅薄なものに終わるだろう。幾多の困難を必死で、必死で耐え、育ってこそ私の望む大きな存在が生まれるのではないだろうか。ますますやったるでェー!がんばるでェー!


ヒロト2022年令和4年6月11日(土)

ちょっと気がついたんだけど、ケンジ、いつの間にか日の出村が日の出町になっているよね。どうして?調べてみたよ。

1955年6月1日に、東京都西多摩郡大久野村と平井村が合併して日の出村になった。

そして、1974年6月1日に町制施行で日の出町になったんだね。なんか、おめでとう。

ケンジの日記と時期が合っていて、腑におちました。


ケンジ1974年昭和49年11月8日(金)

今日はリハーサル日、私は何事にもまずくて、何か言われっぱなし、もっとしっかりやらなくては!誰から見られてもいつも静の状態でさりげなくやってのける。これが今の私の仕事に対する時の理想である。テキパキと、決して慌てず、小川のせせらぎの如く、華麗に流麗に、しかも力強く。私はそんな仕事をする人間になりたい。デッハッハッ!

さて今日は、沖縄行きの往復切符を渡された。早速帰りに、帰りの切符をキャンセルして現金二万三千百円をもらってきた。その金で新宿でシャツを一枚買ってきたし、牛乳屋からは一万一千五十円の給料を貰えるし、ジローからは一万円返して貰えるし、何と今日は金運に恵まれた日だったのだろう。


ケンジ1974年昭和49年11月11日(月)

去年の今日は、くるま座にいていろいろ忙しく夢中でやっていたのだ。今年の今日、誰が私の今どうなっているかを想像しただろうか。もっと何とかなっていると想像した人も

いたかも知れない。これからという時にはどんなことになるやらと胸の膨らむものだが、いざ一年を振り返ってみると、なんや大したこともなく過ぎちゃったという感じになるものだ。これで私は、いったい一年一年ちゃんと進歩の道を歩んでいるのだろうか。とにかく、毎日のように、『頑張らなくっちゃ!』と書いているのだから、ちったァー進歩しているのだろう。またまた頑張らなくっちゃ!


ケンジ1974年昭和49年11月13日(水)

今日の朝は久し振りに良い天気、そんな訳でジローのところへ下着の洗濯物を持って行き、洗濯して干した。しかし昼頃、私らがちょうどボディービルをやっている時に厚い雲が出てきて、靴下などは完全には乾き切らなかったのだ。風も冷たかったしね。

さて、今夜はまたまたジローと口ゲンカして、啖呵を切って別れて来たのだ。ほんの些細な、またしてもギターの音が原因なのだが、ジローにもう帰ってくれと言われて、コタツの電気、照明のスイッチなどを切られたので、カッときて、デッカイ声で啖呵を切って飛び出して来たのだ。どうも口ゲンカの場合、デッカイ声でべらべらしゃべって出て行く者の方が気持ちのスッキリするようである。今頃ジローの方はきっとムシャクシャ割り切れない気持ちに苛まれているだろう。

でもジローのことだから、そういうこともないかな。

とにかく些細なことでケンカしたものだ。

「もう明日からこんなところに来ねぇーからな、あッー気分悪い、勝手にしろォー!」

てなことを言っちゃったので、明日、ジローのところへ行くのに、ちょっとカッコ悪いけど、シャーナイ よね!ケンカはどうしてもやるよ!ねェー!


ヒロト2022年令和4年6月11日(土)その2

しょうもネェなぁケンカなんかして。

いっそのこと、ふたりのケンカをネタにしたらどう?俺が台本書いてみるね。


コント『じろけんのケンカ」作 まさき博人

暗転の中、ギターの音色、見事な演奏

照明カットイン、舞台真ん中にちゃぶ台

それにジローが座ってギターを弾いている。

とにかく、観客が感心する程上手い。

そこへ、ケンジ登場 ジローに向かって不気味な程のニコニコ顔。

ジロー「何だよケンジ、気持ちワリィな!

きのう、『こんなトコ、二度と来ね

ェーからな!』って、帰ったじゃね

ェーか!」

ケンジ「だって、カレーのおかわりダメって

シロー「5杯目だぞ、食い過ぎだ!」

ケンジ(ブリった感じで)「ケンジ!きのう

はきのう、きょうはきょうってカン

ジ!」

ジロー「ナニ言ってんの?」

ケンジ(ブリった感じで)「ケンジ!きのう

プンプン、きょうニッコニコってカ

ンジ!」

ジロー「わかったわかった、わかったから

そのケンジとカンジを引っ掛けるの

やめてくれる!」

ケンジ(急に深刻に)「ジロー君、俺って、

洗濯機無いわけ、下着一週間分たま

っちゃったわけ、貸して欲しいって

わけ。」

ジロー「まぁいいけど、ちゃんとしゃべれな

いの?洗濯物は?」

ケンジ(ポケットから、Tシャツ一枚とガラ

パン一枚引っ張り出して、ちゃぶ台

の上に広げる)

ジロー「きったねェーなぁ、そんだけ?一週

間分じゃないの?」

ケンジ「そっ!一週間分、(Tシャツ持って

広げて)表4日間、裏返して3日間」

ジロー「汚いなぁ、パンツは?」

ケンジ(パンツ持って広げて)「前向き2日

後ろ向き2日、裏返し前向き2日、

裏返し後ろ向き2日、あっ!1日

オーバーダアッ!」

ジロー「そんなことどうでもいいよ。靴下は

?」

ケンジ(寝転んで両足上げる。まるで靴下は

いてるが如く、色が塗ってある)

「マジックだから一週間消えない」

ジロー「バッカじゃないの!」(ケンジの足

を下に下ろすとケンジの上半身がひ

ょっこり起きる。ジロー、リズム変

えたりして何回か繰り返す。)

「おもしれぇなこれ。」

ケンジ「面白いのはうれしいけど、きつい」

ケンジ(仰向けに寝転ぶがすぐ起き上がって

)「俺ッてテレビないわけ、今日本

シリーズやってるわけ、中日ドラゴ

ンズ応援してるわけ、2勝3敗でヤバ

いわけ、星野仙一、高木守道好きな

わけ、ロッテ、カネやん監督なわけ

、村田兆治すごいわけ、、、

ジロー(ニヤニヤしながら、いちいちうなづ きながら聞いている)

ケンジ「中日には矢沢健一もいるわけ、江藤

省三もいるわけ、鈴木孝政も頑張っ

てるわけ、、(息切れしてくる)村

上が、、大、リーグ、から、戻って

、、、うーん、もう止めて!」

ジロー「いつまでやんのかと思ってた。テレ

ビ見たいんだろ、ホラ!」(テレビ

があるが如く、スイッチをいれる)

ケンジ「ワーッ2対2、延長戦ダアッ、大変

応援しなくっちゃ!ちょっと貸して

(ギターを手に取りメチャクチャに

ジャンジャン、歌をがなる)

一番高木が塁に出て~二番谷木が送

りバント~三番井上タイムリー~四

番マーチンホームラン(自己陶酔し

てるかのよう)

いいぞ ! がんばれ !ドラゴンズ!

燃えよ!ドラゴンズ~~~」

ジロー「メロディー、めちゃめちゃ!

ギター、でたらめ!ウルセェー!」

ケンジ「5番やざ、、、」

ジロー「試合終了!」(ギター、ちゃぶ台、

袖に片付けながら)

「ウルセェーよ!退場!」

ケンジ「もう明日からこんなところに来ねェ

ーからな、あッー気分悪い、勝手に

しろォー!』(袖に引っ込む)

ジロー「忘れもんだー!持ってけー!」

(言葉は威勢がいいが、そおっとパ

ンツとTシャツを摘まんでなるべく

自分の体から遠ざけるように腕を突

っぱって持ち、ケンジが入った袖に

棄てる)

そして、ジローはおもむろにちゃぶ台を元の場所にセッティングし、ギターを持ち、オープニングと同じように物悲しげなバラードを弾き始める。

ケンジ、出てくる。まるでハンカチのようにパンツの端っこを噛んで扱いながら、大衆演劇の女形みたいにあ手振りをしている。

ジロー、気付く。「ナニしてんの?」

ケンジ、女形の所作で、パンツを胸の前、両手で握りしめて、不気味な笑顔。そして、

ケンジ「ケンジ、まだご飯食べてないってカ

ンジ!」

ジロー「いい加減にしろ!」

終わり

追記

「ケンジ、ナニナニってカンジ。」

の決めポーズを考える事。


いかがでしょうか?スターアクションでやってみて。名古屋辺りの公開録画の時がいいかもね。

ちなみに、おやまのようなあてぶりは、ある時のクラス会二次会のカラオケで、ケンジがノリノリでやっていたのを思い出したところからコントに入れました。上手かったかどうかは定かではない。

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