NO94/ジローさんとケンジのリアル同日日記2

1974年昭和49年10月23日

『ケンジの日記』

今日は予定通り稽古の一日であった。でもその最中に、中日―ロッテの日本シリーズ第6戦のラジオ放送があり、ついついそっちの方に気を取られがちで、あまりみっちり稽古したとまではいかなかった。しかし、私の応援していた中日は、結局2対3で延長10回の末負けてしまい、ちょっとがっかりしてしまった。それにしても、中日の高木守道選手は、第4戦で痛めた左足甲骨骨折にもめげず、第1打席からヒットを飛ばし、中日ナインの牽引者として、また15年選手のプライドにかけて非常によくやったと思う。高木選手の根性と大和魂に心から拍手を贈る。

さて、天気もいよいよ良方に向かっているということだし、またまた頑張らなくっちゃ!


『ジローの日記』

いよいよ手持ちの金が10円になった。

でも、日テレからの振り込みで銀行に二万一千六百円入っているはずである。

いよいよこれで、本月分中頃まで持たさなければならない・・・

家賃七千円、新聞代八百五十円・・・

一万円の家への仕送りは難しいかな。約三千円で・・・来月、15日か。

いけるいけるぞーー、いけるさ、OKさ。

俺は行くぞーーー。


10月24日

『ケンジの日記』

今日は朝から紺碧の青空、ちょっと風が冷たかったけど、洗濯もしたし、稽古もやったし、とにかく快晴というのはいいもんだ。

稽古の方は新作のコントの稽古にボチボチ入り、だいぶ見通しがついて来たようだ。それに剣道のコントの方もだいぶまとまって来たので、後はじっくり稽古を続けて本番を待つのみ。やはりこういう状態でないと歴史に残るコント師にはなれないよ。


『ジローの日記』』

日記の残りのページが段々残り少なくなって来た。

月日の移り変わり、我が精神の移り変わりを感じる・・・

俺のこの二年間というものを正確に録してくれているように思う。

長く何も書かなかった時期。汚い字で毎日毎日わけもわからない事を書いていた時分。今もそうだが・・・もっと必要事項を書くように・・・アア懐かしい、、、今は・・・空白・・・素直?・・・わからない・・・


10月25日

『ケンジの日記』

今朝は寒かった。とにかく寒かった。牛乳ビンを持つ手も指も靴下を穿かない足も、ランニングと合わせて三枚しか着ていない上半身も、全てが凍るように、風邪をひきそうに寒かった。空を真っ青、言うことなかったのだが。とにかく明朝は土曜日、倍配である。何故か牛乳配達のバイトを始めると、一週間の経つのがめくるめく速い。それだけ土曜日の倍配の印象だけが妙に強いのだろう。

もう十月もおしまい、私の今回の約束は十月いっぱいだから、それで牛乳屋からも開放される訳だ。しかし私の後釜のめどは全く立っていないようだし、ちと不安がよぎる。

まぁー私の本業はコントなのだから、これからはちょっと牛乳屋なんかはやってられない。コントでそろそろ追い込みをかけなくっちゃ!


『ジローの日記』

練習、練習で終わった一日。

お金が無くなり、貯金をおろす。二万一千円・・・苦しい。


10月26日

『ケンジの日記』(NO93に載ったので、最初と最後の方だけ)

・・・夕食に作ったカレーが旨かったし・・

・・・今宵も「新・荒野の七人」という洋画を途中まで見て、これからというところだったのだ。私はてっきりジローも一緒に見ているのだとばっかり思っていたら、不意に「ケンジ、もう9時過ぎたんだけどォー」である。早々に退散して来た次第である。


『ジローの日記』

別に変わらない日。何という事はない。(カレー)


10月27日

『ケンジの日記』

今日は朝から昼過ぎまで予想もしなかった雨にたたられた。どうやら昨晩から降り始めたようであるが。でも日曜日で良かった、明朝は降るなヨ!

さて、今夕はジローの部屋で「せんみつ、湯原ドット30」というTBSの番組を見て来たのだが、そのギャグの発想が、私らのコントの発想に非常に近いのに愕然とした。この番組というのは、今現在流行中のCM、歌謡曲、流行語などを30分の中にギッシリ詰め込んだドタバタバラエティーのような内容なのだが、今、私がジローと共に稽古しているコント群が、私が想い暖めていた方向を、先取りされてしまった感が強いのだ。こういう番組が出てきた以上、私らも今までのような考え方、持って行き方ではダメだ。これはまたまた、大きな勉強する課題ができた。とにかくシロウトでもできるギャグの組み合わせで笑わせる程度のドタバタでは、私らの進歩はないことを悟った。また改めて頑張らなくっちゃ!


『ジローの日記』

朝、すがすがしい。


10月28日

『ケンジの日記』

イヤッー、今日は一日絶好の秋晴れであった。天高く清く澄んだ青空のもと、今日も稽古に精を出した。とにかく天気のいい日に屋上でやる稽古は何とも言えない。今夜の月もまた煌々と白いし、そんなに寒くもないし、まさしく晩秋も熟しきったという感じ。

ところであれよあれよという間にもう10月も終わりだ。何か牛乳屋のおやじが私が今月いっぱいで辞めるのを忘れちまったでもの如く、自若としているのが不安である。まぁー

多少手伝ってくれと言われれば、私の本筋から外れない程度なら手伝ってやらないでもない。とにかく健康にはいいし、規則正しくなるし、朝飯は食えるし、給料も貰えるのだから、これでもう少しあのオヤジとオカミさんが寛容で話のわかる気前のいい人なら申し分ないのだが。あの前ブレーキもベルも付いていない、サドルのボロボロの自転車じゃー、

もう続ける気はしない。


『ジローの日記』

金・・出て行く・・・家賃・米。


10月29日

『ケンジの日記』(やはりNO93にあるので最後だけ)

・・・まぁーとにかく雨が降ろうが槍が降ろうが、一年は様子を見なくっちゃ!人間のことだからどうなるかわからないよ!


『ジローの日記』

昨日同様、隣のおじさんの部屋におじゃまに上がる・・・!


ヒロト2022年令和4年6月8日(水)

ジローさん、一ヶ月3000円?チャレンジャーだね。米と納豆と玉子、それにキャベツだな。食べなきゃ駄目だよ。カレーはいいね、野菜も取れるし。ふたりで自炊して、ケンジはちゃんと食材費出してるんだろうね?

それにしてもジローさん、こんな中、仕送り一万円て凄いね、偉すぎる。顧みれば、俺って仕送りしたことがない。当時はすることを考えたことも無かった。役者になるって言って勘当されて、仕送りするという機会を逸したというか、食えない役者には仕送りなど出来ないというか、結局したことがない。

あぁ、親不孝者だったんだ。ジローさんが今、気付かせてくれた。

あぁ、オヤジ、オフクロ、あなたたちはもういないけど、この親不孝者に最後まで、恨みごとは言わなかったね。ありがとう、許してください。


すんげえ重くなっちゃったね。ごめん。

でも、地方に公演に行って、旨い物があったりしたら実家に送ったりはしていたんだ。それで勘弁して。


ケンジ、ジローさん、ふたりには何というか微妙な空気が流れているね。けれど俺は、静かに見守って行くことしか出来ない、いや、それはそうなんだろうけど、言いたい時は言わせてもらう。いいよね。





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