我はミミック

狂フラフープ

我はミミック

 私はミミック。

 穴倉で獲物を誘う人外の化生。

 私は擬態ミミック

 人を模し人を振舞う人ならざる存在だ。


 私の生はただ待つことだけで構成されている。

 手持ち無沙汰を埋めてくれるものはそう多くはない。哀れな獲物が遺した手記がいくつかと、かつてここにいた者の日記がひとつ。日記の主もまた擬態だった。けれど彼は私と似ても似つかない。


 私が目覚めて二十と七日が経った。無論その間一切獲物を口にしていない。

 という訳で実のところ私は人を目にしたことがない。すべての知識は書物から得たものだ。

 ミミックたる私には私のような知性も自我もない。しかし非常に高度な知能のようなものを持つだろう。でなければこれほどまでに人を再現し、人間的な思考を展開できるはずもない。私が人間的であるというのが私の思い違いでなければ。


 逃れ得ぬ死に直面した者の恐怖を思う。


 私はミミック。

 私が心待ちにする獲物が私の下を訪れた時、私の身体は真二つに裂け獲物を八つ裂き喰らうだろう。


 私は擬態ミミック

 苦しむ暇もあろうはずもない。

 人が人としてものを思うことができるのは、人の形をしているからだ。

 ひとたび人の形を失えば、獣として叫び、物として黙る。

 例外はない。無論私とて。


 逃れ得ぬ死に直面した者の恐怖を思う。


 私はミミック。

 獲物の到来を、私が待ちわびている。


 私は擬態ミミック

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