012
僕は息も絶え絶え、彼女のスピードについぞ追いつくことは出来なかった。
ただその後ろを遠くから追うのが精いっぱいだった。
彼女の追跡劇は壁にぶつかり、障子を蹴破りと暴れに暴れという有様だった。
だけど最後の最後、彼女が鎧武者を抱きしめた途端。
鎧武者の鎧は砂のようにぱらぱらと砕けて風に乗って、中からは満足そうな顔をした有馬いろりがでてきた。
その彼女もすぐに、風の中に消えて行った。
幻のように。
思い出のように……。
「圷さん」
有馬は僕の方を見て、安堵したように目を細める。
僕は肩を上下させつつ、息を整える。
吐いた息が乱れたまま舞う。
「ありがとうございます!」
にっこりと笑ってお辞儀する。
「結局解決したのはお前だよ。僕は大したことはしてない」
助けてもらったのは僕の方だし。
一度は逃がしてもらったのなんて、彼女のおかげだ。
僕がやったのは、ちょっとした示唆だけだった。
だけど有馬は頭を振る。
首を傾げるしかない。
正直疲れ果てて頭が働いてないって言うのもある。
でも、有馬は心底嬉しそうにして。
「いえいえ、わたしの方です。だって圷さんは」
子供みたいだ。
自分が見ている色んなものが、そしてそれよりももっといろんなものが世界にはあふれているってことを初めて知ったみたいな。
そんな純粋無垢な明るさを携えて。
「私を、見つけてくれましたから!」
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