013 end
結局。
有馬いろりの陸上部引退騒動は彼女を慕う後輩と、彼女を妬む先輩のしょうもないながらも苛烈な喧嘩の末に起こった悲劇、もしくは喜劇だったらしい。その責任をとるという形で、有馬は部活動を辞めたらしい。
と云うのは有馬本人から聞いた話で、実はこれには後日談があったりする。
鎧武者と戦った二日後くらいに有馬は再び陸上部を訪れた。
唖然とする後輩と苛立つ先輩の顔を一瞥して有馬は、そいつら全員の顔面に一発ビンタをお見舞いしてきたらしい。
一人残らず。
全員殴り終わった後には自分にも一発ぶち込んで。
そしてびしっと礼儀正しく頭を下げて。
「ごめんなさい! 今までご迷惑おかけしました!」
大きくそう言い放って。
「わがままばっかり言ってた私を、なんだかんだとここにおいてくださって、ありがとうございました‼」
涙を流して、頭を下げて。
それは深く深く、長い時間上がることはなく。
しばらく部室は静寂に包まれて、そして先輩たちは何が何だかと顔を見合わせていたらしい。
「要するに、あの鎧武者さんは消してしまいたい私自身だったんです。でも、結局どんなに嫌だ嫌だと喚いても私自身ですからねぇ……。一心同体でなくっちゃ」
帰り道、放課後。
自転車を押して歩く有馬いろりは僕にそうやって解説をしだす。
正直僕はあの事件に関して関係者ではあるものの、内情はよく知らない部外者でもあった。
ただ有馬に死んでほしくないという一心だけで動いたから、正直ほぼほぼ無関係なのだ。
「結局怪奇現象が巻き起こっただけだな。幽霊屋敷も名ばかりであの後特に何かが出たって訳でもなかったし」
「強いて言えば、たった一日で障子が破られていたり……。あのお屋敷、散々な惨状に早変わりしてしまったらしいですね。恐ろしい幽霊さんだ」
「お前のせいだ、お前の」
「なんてことっ⁉ 私は死んでしまっていたんですか」
「塩投げてお清めしなくちゃ」
「————嗚呼、実は私塩よりも甘い、甘―い砂糖が怖い」
「饅頭怖いみたいな事やろうとするな。お前が食べたいだけだろ!」
「てへっ」
結局有馬はああやって抱擁によって、すべての怪奇現象を終わらせてしまったのだ。
そうしてちょっとすがすがしい顔をしている。
結局、僕がどうして有馬いろりを見つけられたのかはわからずじまいだ。
それは多分、たまたま。
神様の偶然なのだろうと考えている。
とは言え、偶然は運命とも聞くし、なんならここで会ったのも何かの縁という言葉もある。
実際それで僕たちは出会い、なんだかんだであの怪異現象を乗り越えたのだ。
僕がそれに手を差し伸べられたかは疑問が残るけど……。
「そういえば私、新しく部活動に入ったんですよ」
「調理部か?」
「何故それを……⁉」
「好きそうだろ。砂糖たっぷりいれて」
「圷さん、私のこと甘いもの大好きモンスターだと勘違いしてませんか⁉」
「違うのかよ」
「私が甘いものを食べるんじゃありません。甘いものが私に寄ってくるんです」
「つまりは?」
「スイーツほいほい」
「それ、お前がスイーツにほいほいついて行くみたいにならない?」
「そうとも言えます!」
「甘いもの大好きモンスターじゃねぇか」
「はっ!」
「はっ! じゃないよ!」
真横で大げさに騒ぎ始める有馬に、思わずニコニコしてしまう。
こいつの明るさは多分天性のものだ。
実際心の底には、暗い部分もあるのかもしれない。でも、自分自身で大体は打ち消してしまう。
それでも溢れちまった時は、僕がどうにか支えてやろう。
どれくらい役に立てるかは分からないが、やれることはやってやるさ。
それがこの事件で知り合った縁、というやつだ。
「あ! そーだ」
有馬はあれ以来メイド服を卒業し、学校指定のブレザーを着用している。
結んだ髪を大きく揺らし、彼女は僕の方を振り向く。
「パンケーキ、ありがとうございました!」
そうやって有馬いろりは、嬉しそうに笑った。
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