第44話 石板がいっぱい
(……終わった…)
作戦が上手くいってよかった。
五分間に及ぶ袋叩きの末、炭化し始めた蜥蜴を見下ろしながら安堵する。
そして自分は今生きているんだという形容しがたい高揚感、充実感を覚えながらも現実からは目を逸らさない。
現実とは何か…。
【土属性魔法】を使っちゃったことについてである―――。
なんちゃって魔法使いの俺とは違い、生粋の魔法使いである二人は俺が魔法を行使したことに当然気付いていた。
「……美作君、魔法系のスキルを持っていたのね…」
「ね……てっきり武術系のスキル持ちだと思ってた…」
俺の横に並び、蜥蜴の炭化を見つめながら氷室さんと小松さんはそうつぶやく。
何度も言うが俺は彼女たちに【スキルボード】のことを話していない。早々にパーティを離れる予定だったし、言っても面倒ごとにしか発展しないからだ。
お互いのことを最低限知っていればそれでいい。深入りはしない。
パーティを組むにあたって、組んでいる最中、俺と二人の間には壁があった。それは今も変わらない。
ただ、その壁は初めの頃よりは薄くなっていた。
数日に渡る冒険が壁を薄くし、お互いの距離を縮めさせたのだ。
故にこそ、【土属性魔法】という新しすぎる俺の一面に触れ、彼女たちは薄くなっていた壁の向こう側にもう一枚の壁が存在していることを知ってしまった。さらに分厚い壁を。決して薄くなることのない壁を。
「……ごめん」
俺は謝り、黙りこくることしかできない。
「まぁ、一時的なパーティだから気にすることないよ…」
「……そうね」
どうして隠していたの?と問い詰めてこない辺り、彼女たちもまだ何か自分たちのスキルに関して隠していることがありそうだが、俺がした行いが肯定されるべきことではないのは確かだ。
三日目に俺が第15層で抜けるよと宣言せずともここでお別れになっていることだろう。三人の間に流れる空気は死んでいた。胸が痛む。
(パーティを去る前にはぴったりの雰囲気だな…はは)
【スキルボード】を明かさなかったことへの申し訳なさと少しの後悔。
まぁ、女の子と心の距離が近くなったのに再び離れてしまったという事実から来るダメージが俺の胸の痛みの大半を占めているので、あってないような痛みだが、忘れてはいけない痛みだ。
(……よっし、ドロップアイテムを確認しに行くか)
学びになったなと自分の中で踏ん切りを付けた。忘れてはいけないけど、引きずり過ぎてもいけない。
敢えて声高めに「三等分でいい?」と炭化した蜥蜴の後に残ったドロップアイテムを拾い上げて二人に確認する。三等分と言っても『幼地竜の鱗』そのものを三等分するわけではない。『幼地竜の鱗』と引き換えに貰える金額を三等分にするという意味だ。
いつもであれば聞かずに魔法鞄の中に入れるのだが雰囲気が雰囲気だし、モノがモノなので聞かずにはいられない。
「もちろんいいよ。彩芽は?」
「いいわよ」
二人の了解を得てから見る角度によって黄色にも茶色にも赤色にも変わる何とも不思議な幼地竜の鱗を魔法鞄に入れ、第16層に続く階段に向け歩き出す。
階段の途中、俺はふと、そういえばまだ次のスキルボード見ていなかったなと思い出し、【スキルボード】と心の中で念じた。
<土属性魔法のスキルボード>
―――――――――――――――――――
右上:洞窟型ダンジョンに滞在
100/100時間 達成!
右下:鉱物系怪物の討伐
100/100体 達成!
左下:泥団子を作る
1000/1000個 達成!
左上:土属性魔法をくらう
100/100回 達成!
―――――――――――――――――――
報酬:
スキルボード 【渾身の一撃】
スキル 【土属性魔法】
5枚達成特別報酬:<常設のスキルボード>解放
スキルボード『常設【身体能力補正】』
『常設【自然治癒力補正】』
『常設【自己鑑定】』
『常設【投擲】』
『常設【土属性魔法】』
――――――――――――――――――――
「…………は?」
意味が分からない。目を疑う。情報が多すぎる。
「どうかした?」
「え、あ、いや……あの鱗ってどのくらいで引き取ってもらえるのかなぁって、はは…」
「あ~
「それくらいが妥当ね」
「へー(棒)」
(ごめん、小松さん。折角教えてくれたのになんも頭に入ってこないや…)
うっかりあげてしまった声を誤魔化した俺は再び石板に目を向ける。
すると、いつものように石板は次のノルマの内容に変わっていた。
何枚もの石板が俺の周りをふよふよと浮かんでいる。
<渾身の一撃のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右半分:八等級以上の怪物を倒す
0/100体
左半分:怪物を一撃で倒す
連続0/100体
報酬:
スキルボード【???】
スキル【渾身の一撃】
――――――――――――――――――――
<常設【身体能力補正】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:懸垂 0/1500回
右下:ランニング 0/50㎞
左下:腕立て伏せ 0/5000回
左上:ランジジャンプ 0/2500回
報酬:【身体能力補正】+Lv1
――――――――――――――――――――
<常設【自然治癒力補正】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:背筋 0/5000回
右下:拳立て伏せ 0/5000回
左下:ドラゴンフラッグ 0/2500回
左上:ランジジャンプ 0/5000回
報酬:【自然治癒力補正】+Lv1
――――――――――――――――――――
<常設【自己鑑定】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:腕立て 0/5000回
右下:腹筋 0/5000回
左下:スクワット 0/5000回
左上:ランニング 0/50㎞
報酬:【自己鑑定】+Lv1
――――――――――――――――――――
<常設【投擲】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:バーピー 0/500セット
右下:全力200m走 0/50本
左下:懸垂 0/1500回
左上:腿上げジャンプ 0/5000回
報酬:【投擲】+Lv1
――――――――――――――――――――
<常設【土属性魔法】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:バーピー 0/500セット
右下:腿上げジャンプ 0/5000回
左下:ドラゴンフラッグ 0/2500回
左上:腕立て伏せ 両手の人差し指と親指で三角形
0/5000回
報酬:【土属性魔法】+Lv1
――――――――――――――――――――
(……明日朝陽さんのところに行こ…)
情報過多———。俺は考えるのを一旦放棄することにした。
ただ、そんな俺にもわかっていることは一つだけあった。
(脳筋スキルめ……!)
筋トレ地獄はまだ始まってもいなかったらしい―――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて第三章終了です。
第四章ではついに【スキルボード】が火を噴きます。
ただ筋トレ描写はそこまで増やさない予定なのでご安心を。しっかり冒険します。
面白かったな、続きを読んでやってもいいぞ、と思う方は
☆☆☆高評価、小説フォロー、応援を是非!……是非!
レビューとか書いて下さるとなお嬉しいです!作者の創作意欲が爆発する可能性があります。
作中失礼しました|Д´)ノ 》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます