第43話 決着は突然に
<ステータス>
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名前:美作 海
年齢:16
スキル:【身体能力補正】
【筋トレ故障完全耐性】
【筋量・筋密度最適化】
【自然治癒力補正】
【自己鑑定】
【両利き】
【投擲】
【土属性魔法】new!
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(はてさて、どうやって土属性魔法を上手く使おうか…)
なんて、考えようとしてみたけれども答えは既に決まっていた。選択肢が一つしかないからだ。
岩装小鬼のように岩の鎧を作る?
地面から鋭く太い岩を発射して腹に突き刺す?
蜥蜴がやっているように岩石を作り出して浮遊させる?
蜥蜴の身体がすっぽり隠れるほどの深さの落とし穴を作る?
地面の土を泥に変えて蜥蜴の足をとる?
違う。どれも違う。
俺の【土属性魔法】にそこまで期待しないで欲しい。
【スキルボード】から獲得したスキルは一般平均を下回るということを忘れてはいけない。
同じ名称のスキルであっても人によってその効果は様々。
【身体能力補正】を例えに出すと、10%のバフしかかからない人もいれば、100%のバフがかかる人もいる。中には500%のバフがかかる人もいるのだ。
【自然治癒力補正】【投擲】も同じことが言える。
そして俺はこれら三つのスキル全てにおいて平均を遥か下回っている!
であれば【土属性魔法】も同じはずだ。
もしかしたら魔法だけは!とか甘っちょろい考えはない。【スキルボード】をある意味信用しているからだ。こいつは俺に楽をさせないという微塵も役に立たない信用が俺の心の中にはある。
もう一度言おう。
『岩装小鬼のように岩の鎧を作る?
地面から鋭く太い岩を発射して腹に突き刺す?
蜥蜴がやっているように岩石を作り出して浮遊させる?
蜥蜴の身体がすっぽり隠れるほどの深さの落とし穴を作る?
地面の土を泥に変えて蜥蜴の足をとる?
そんなカッコいいことできるわけないだろう!』と。
故に俺が蜥蜴に対して使える有効な【土属性魔法】の行使の仕方はただ一つ。
30㎝くらいの
作戦名:
『全速力で向かってくる蜥蜴の足元の死角に土属性魔法!蜥蜴をコケさせて袋叩きにしちゃおう作戦』
これしかないのだ。出来ないのだ。
ちなみにこの作戦を実行する機会は今しかない。そしてこの作戦を成功させないと俺たちに勝ち目はないと思う。
「ちょっマジか…それ再生できんの……」
「再生というよりかは新しく作ったと言った方が適切かもしれないわね」
未だ前方十数mでじっと止まりこちらを睨みつける蜥蜴の頭部、初撃で俺が砕いた岩装が復活、もとい【土属性魔法】によって復元されていくのを俺たちは目撃する。
準備は整った。あと少しで奴はこちらに飛び込んでくるだろう。
そして飛び込んできたら最後。どちらかが倒れるまで乱戦は続く。距離を置くことは出来ない。させてくれない。
そうなってしまえば俺が土属性魔法を使う機会はなくなる。スピードがない状態で足を引っかけたとしても奴にとってダメージはない。
奴は生身の状態で俺以上の近接戦闘能力を持っている。加えて氷室さんを完封することのできる
対してこちらは近接で渡り合えるがとどめの刺せない前衛とマナ残量の少ない後衛二人。乱戦になったら最期なのは俺たちだけ。
お互いが距離を取っている今しかチャンスはないのだ。
非常に不本意であるが賭けるしかない。シュバッシュバっと切り刻んで圧勝したかったが今の俺の身体能力では、腕前では、武器では無理。格上に勝つためには
「氷室さん、小松さん。俺が『今』って言ったら両サイドに走り出してくれる?」
俺は作戦の全体像を伝えることなく、走ってくれとだけ頼む。
「美作、勝つつもりはあるの?」
「もちろん」
「分かったわ」
「なっ、佐紀!?3対1の状況なのよ!」
「直接戦っていない私たちが有利不利を言える場面じゃないよ」
「むっ……分かったわ。走り出したあとは何をすればいいのかしら?」
「―――思い切り奴を攻撃して」
「…は?」
「―――来るよ…」
氷室さんと小松さんには申し訳ないがもう時間がない。
今にも走り出しそうな蜥蜴をじっと見つめ、最高速度に達するのはどこだろうかと予想し、そこの地面に30㎝程の土塊を隆起する未来をイメージする。
『魔法とは自分の身体の一部である』
高名な冒険者がテレビで言っていた言葉を思い出す。
「『難しく考えない』―――これが一番大切なことです。『体内を巡るマナを感じよう』『引き起こそうとしている現象の化学反応を理解しよう』――これらは雑念でしかない。『自分の手足を動かすときにどうして私の腕は動いているのだろう』『どうして私の足は進むのだろう』とあなたは考えたことがありますか?魔法を行使する際に自分がどうしたいかを想像する。行使した後に
あそこの地面は俺の身体の一部。
あそこは俺の腕。
思い切り
(よし、イメージは出来た。後はタイミングを合わせるだけ…)
地面が本当に自分の腕に見えてきたところで本日三度目の集中状態の海に自ら足を踏み入れる。
関係ないものは全て見えなくなってしまうくらいに深く深く潜りこむ。
「――――――グルルル――――――グルルル―――」
蜥蜴の息遣いだけが俺の耳に入り脳へと信号を送る。まだだ、まだだ、と。
「――――――グルルル――――――グルルル―――」
(まだだ………)
「――――――グルルル――――――グルルル―――」
(………)
「――――――グルルル――――――グルルルッ―――」
(来る。)
ドンッ!!!
自身で操っている岩石とともに爆発的な脚力で飛び出す蜥蜴を見た俺は数瞬遅れて合図を出す。
「今ッ!!!」
ザザッ!
俺の合図とほぼ同タイミングで後ろから地面を蹴り上げる音がした。
そしてその音を拾ったのは蜥蜴も同じ。奴の場合は一瞬視線まで音の方向に向かっていた。
「グルッ!?」
後衛の突然の散開。訳が分からないのだろう。
でもそれでいい。気を完全に足元から逸らすことが出来た。
訳が分からないまま躓いてくれ。
(――――――【
ぼこっ
力が全身から抜けていく感覚を覚えた次の瞬間。俺の全体内マナが籠った土凹が全速力で駆けている蜥蜴の左足。俺たちから見れば右側の足の前に出土する。
ガツンッッッ!!!
「グルアッ!?!?」
蜥蜴はこけた。ダイナミックにこけた。傾いた巨体が右側へと倒れゴロゴロと転がる様は巨木のよう。
俺は上手く力が入らない身体に鞭を打って制御不能となった岩石群を必要最小限の動きで躱し、奴の元へ駆けながら全力で叫ぶ。
「叩き込めええええええええええええ!!!おりゃああああああ!!」
ガギャンッッッ!!!バキンッ………ボゴンボゴンボゴンボゴン!!!
ボス部屋に轟く金属音、まるで空から落ちてきた流星群のような氷塊。
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