第4話 超一流冒険者(加筆修正済)

「適性があり且つ冒険者登録を希望する方は十三時から本建物の六階『601』で行われる説明会へ。仮冒険者登録を希望する方は『602』で行われる説明会への出席をお願いします―――これにて冒険者適性検査は終了となります。お疲れ様でした」


 俺がゲートからここの部屋に戻ってきて十分ほどだろうか。おばちゃんによって冒険者適性検査の終了が言い渡された。ちなみに俺以外だとマサヒコとユリ、あとは顔の厳ついおじさんがスキルを貰えたらしい。それ以外の人は貰えなかったようだ。


 一人一人とゲートルームから出て行く中、俺と同じく冒険者適性ありと判断されたマサヒコとユリが話しかけてきた。


「カイ、この後どうする?俺とユリは説明会までの時間、セントラル内の冒険者関連の店回ったりしようと思ってるんだけど、お前も一緒に来るか?」


 こいつホント良い奴だな。

 俺がマサヒコの立場だったら「じゃあまたね」とか言ってすぐさま外に出てくよ。さすが陽キャだぜ。ただ俺としてはカップルと一緒にここから数時間行動するなんて無理無茶無謀のほか何ものでもないし、つい先ほど用事が入ったので返事に関しては考えるまでもなかった。


「ごめん。俺、職員さんにここに残れって言われてるんだ。だから…」

「いーよ謝らなくて。…で、カイ君なにやらかしたの?」

「なんでそうなるのさ…別に何もやらかしてないよ」


 冗談で言ってるのは分かるのだがそのうえで聞きたい。俺を何だと思ってるんだ、と。


「オッケー。んじゃカイ、またあとでな」

「バイバーイ」

「うん。またあとで」


 軽く手を上げその場を去るマサヒコとユリに手を振り見送った後、職員のおばちゃんの方に近づいていく。つい先ほどできた用事を済ませるためだ。


「すみません、お待たせしちゃって」

「いや、引き留めたのはこちら側だから気にしなくていいよ。あの子たちはあんたのお友達かい?」

「友達というより知り合い…ですかね…。さっき知り合ったばかりなので」

「そうかい、無駄なこと聞いたね。っと、時間がないんだった。残ってもらった理由を話すよ」

「お願いします」


 俺は先ほどできた用事『スキル検証』の説明を受ける。

 おばちゃん曰く、新しいスキルの発見というのはそこまで珍しいことではないのだという。年に数件はあるらしい。しかしだからと言って「あぁそうね。新スキルね」で終わることはなく、その新スキルがどのようなものであるのかというのを調べなければならない。

 使用条件や効果、周囲への影響、場合によっては被害その他もろもろ。ダンジョン内事故を未然に防ぐためには新スキルを使用者が理解しなければならない。その理解のサポートを国営である冒険者センターが一緒にしますよってのが『スキル検証』だという。


 まぁ要は冒険者センターが把握していない輩をダンジョン内には入れさせないぜって話。当たり前の話であるし納得もできる。というかそもそも断る権利がないので「なるほどぉ」と頷いておく。義務である。


「説明はこれくらいかね。これからあんたにはそのための場所に行ってもらうよ。まぁ身体を弄られるわけじゃないし身構えなくてもいいさ。もうそろそろ案内役の者が来るはず……あぁ、来た来た」


 おばちゃんのその言葉と時を同じくしてゲートルームの扉が開く。


 カツカツと床を叩くヒールの音、華がありながらもきっちりとしている受付嬢の制服、片肩にかけられた桃色の長髪、パーツ一つ一つが非常に整っていて尚且つパッチリ二重の桃色の瞳によって愛嬌もある顔つき。


「菊池さん、お待たせしました」

「いや、いいよ。今ちょうど説明を終えたところさ」


 扉の向こうから現れたのはまごうことなき美人さんだった。イエスッ。

 あとおばちゃん菊池さんっていうのね。あ、胸のあたりにネームプレートあったわ。すまん興味なかった。美人さんにはもちろん興味があるので確かな存在の上に斜めって乗るネームプレートを見る。


我妻わがつま 桜子さくらこ』と書かれていた。


「美作海さん、ですね。私は我妻桜子といいます。早速ですが今、お時間はありますか?」

「もちろんあります」


 ボッチは暇なのだ。


「分かりました。それではスキル検証のため移動したいと思います。私についてきてください」

「はい」


 俺は桜子さんの後ろにホイホイとついていった。



 ◇◇◇



「スキルというのは既存、新発見に関わらずダンジョン内でしか使用することが出来ないとされています。これは偏にダンジョン内にのみ存在する『マナ』の影響であると言われているからです」

「随分とあやふやなんですね」


 桜子さんの隣に並びお話をする。話の内容は専らダンジョンに関係すること。

 昨日クラスの女子たちが「冒険者いいよねぇ~」と話しているのを聞いて冒険者になろうと決めた俺は如何せんダンジョンがなんであるかということを知らない。

 移動時間中の無言がキツイこともあり勇気を振り絞って「ダンジョンって何なんですかね」という哲学頓珍漢なことを聞いたところ、桜子さんはいやな顔一つせずに話し始めてくれたのだ。何と優しいのだろう。


「…そうですね。ダンジョンが世界各地に出現してから既に四十年ほど経っていますが依然としてマナがどのようなものなのかを正確に理解することは出来ていませんね。そもそもマナというものはダンジョン内に存在する何かである、ということしかわかっていませんから」

「宇宙でいう暗黒物質ダークマターみたいなものなんですかね」


 俺の言葉に桜子さんは指を唇に添える。かわいい。


「ん~そう言われると確かに似ている気がします。マナはその成分さえも推定されていない、することが出来ていないんですよね。どうやら成分でさえ未知なようで…でも未知の成分で構成されていると分かってるとも言えるのでしょうか?」

「ダンジョンを研究している人はすごいですね…」


 なんだその言葉遊びみたいな学問は。ダンジョンへの認識が理解とはその真逆、得体の知れないものの方へと流れていく。


「ダンジョンってよくわかんないところですね。冒険者っていうのはそんな得体の知れないところに飛び込む人たちの……」


 俺がぼそりとそうつぶやいた時。桜子さんが突如として慌てふためき始めた。


「ああ!違います違います!確かに解明されていないことが多い場所ではありますが、決して得体の知れない場所なんかではないのですよ!何故かはわかりませんが地球と同じ重力ですし、スキルで魔法とかは使えますけど基本的な物理法則は一緒です!それに暗黒物質とは違ってマナは人間にとって無害なものであることが分かっています。長い間マナに触れていると髪と目の色が変わったりしますがそれは染めたりカラーコンタクトをすることで何とでもなりますし…」

「あぁすみません。つい」

「い、いえ。私の方こそ取り乱してしまって…申し訳ありませんでした」


 びっくりしたぁ。迂闊だったな。桜子さんは冒険者センターの職員さんなのだ。ダンジョンを得体の知れない場所だと言えば慌てて訂正するのは当たり前であった。

 というか得体の知れない俺未確認スキル保有者が言えることじゃないだろ。


 ところでさ……髪と目の色って変わるの?なにそれ知らない。


 申し訳なさそうにしている桜子さんに申し訳ない気持ちで俺は質問する。今じゃないのわかってるけど気になったんだもの。


「あの、我妻さん。今のは俺が悪かったんで謝らないでください……それと質問なんですけど髪と目の色が変わるってどういうことなんですか?」


  俺の質問に桜子さんは「え?あぁ…」とどこか納得したようだった。


「はい、変わりますよ。マナに長時間あてられると何故か徐々に髪色と目の色が変わるんです。何故かですけど……私の髪と目もマナが原因で栗色から桃色に変わっています」


 桜子さんは自身の桃色の艶のある髪を触り、目をぱちくりさせながらそう話す。茶色からピンクではなく栗色から桃色とは何ともお洒落な言い方だ。


「へぇ、知らなかったです。…ん?てことは我妻さんはダンジョンに結構もぐったりしているんですか?」


 マナを長時間浴び続けると髪と目の色が変わっていく。ということは桜子さんもダンジョンに長い時間潜ったりしているのだろうか。彼女の髪と目の色は茶色の色素など微塵も感じさせない桃色だ。


「はい、人並よりかは長く潜っていますね」


 桜子さんはけろっとした表情でそう答えるので俺は少し気になってしまった。彼女はどれくらいダンジョンに潜っているのだろうと。


「おぉ、どれくらい潜ってるとかって分かりますか?」

「そうですね。はっきりとは覚えていませんが……少し話が逸れる、いえ本題に戻ると言った方がいいですね。スキル検証は当然スキルを使用することのできるダンジョン内で行います。しかし美作さんは冒険者適性を持っているもののまだ正式な冒険者ではありません。そんな美作さんをダンジョンに入れることができるのは特例ではありますが二等級以上の冒険者センター職員のみです。…これが答えでいいでしょうか?」


 ……わお。スッっと桜子さんの口から出てきた答えに息を呑む。冒険者をあまり知らない俺でも分かるよ。等級が何なのかってのは。


 冒険者は下から十等級、九等級、七等級となっていてその数が減るごとに冒険者のレベルは上がっていく。

 一番上は『特級』と呼ばれる数に縛られない特別な等級。その二つ下の等級が桜子さんの言った二等級冒険者だ。つまり桜子さんは二等級以上の冒険者資格を持っているということになる。

 二等級冒険者がどれだけ高みの存在かは知らないがまず間違いなく化け物と言っていいほどの強者であることは分かった。


「我妻さん、二等級冒険者だったんですね……すげぇ」

「いえ、一等級です。ゲートに入りますよ」

「……えっ……あ…」


 俺が気が付いた時、ゲートはすぐ目の前にあった。

 どうやら桜子さんは美人で可愛くて滅茶苦茶強いらしい―――。

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