5.一等級ダンジョン
ゲートを抜けるとそこは地球とは異なるもう一つの世界だった。
空高く浮かぶ太陽のようで太陽ではない光源に照らされた草木が風に揺られて青々しい匂いを振りまく。所々に丘や山の様なものが見えるがここはまごうことなき大草原だった。
「すげぇ……」
テレビやYourTubeでは見たことがある光景なのにそうとは思えない感動が脳を支配する。桜子さんが一等級冒険者であるとか、ここは世にも恐ろしいダンジョンであるとか今はどうでもいい。俺はただただ目の前の光景に圧倒されていた。
「どうですか?一等級ダンジョン『渋谷』は。悪くないところでしょう」
「…はい、これはすごいですね。冒険者を志す人が多いわけだ」
「実際はなんとなくや副業、ダンジョン関係の職業に就くための経歴作りが目的で冒険者を志す人が多いですけどね」
でもこの光景を見て感動を覚えるのは皆同じだろう。そこに志望動機の差異は関係ない。それに俺の志望理由よりも全然立派じゃないか。なんだよ経歴作りって。真面目かよ。
まぁそう自覚しても女の子にモテたい衝動は収まらないが。男子校三年の隔離と共学における三か月のお預けは俺の心に消えない傷と飢えを残したのだ。
ダンジョンの草原にてただ一人
「さあ、もう少しこうしていたいところですがダンジョンに来た目的はダンジョン観光ではありません。スキル検証です」
「そうでしたね。で、どこでやるんです?ここですか?」
「ここではありませんよ。…あ、使っちゃダメですからね?爆発したら冒険者適性の結果を変えなければならなくなってしまいます」
「つ、使いませんよ…」
あっぶねぇ使うところだった。どうやって使うか分からないけど。あといつから俺のスキルは≪爆発≫になったんだ。≪スキルボード≫ですよ?爆発の要素どこにもないじゃん。
「こちらです。ついてきてください」
「あぁはい…で、どこでやるんですか?極秘であれば教えてもらわなくていいですけど」
心の中でワーワーと喚く俺を気にかけることもなくスタコラサッサと先に向かう桜子さん。そんな彼女の全く軸のぶれない頼りがいのある背中を追いながら質問する。
「別に極秘ではないので言えますよ。今向かっている場所は冒険者センターダンジョン内ダンジョン研究室――通称ダンジョンラボと呼ばれるダンジョンに関連することを研究する場所です。そこの実験室で美作さんにはご自身のスキルを使用してもらってデータを取ります。もちろんそのデータは冒険者センターからは一切外部に漏らしませんので安心してください。冒険者にとってスキルというのは商売道具そのものですからね」
そんでもってもし俺のスキルが暴走すれば外部に漏らさず隠蔽する…と。考えすぎか?まあいいや。それよりもダンジョン内に研究室なんて大丈夫なのだろうか。
「ダンジョン内にダンジョン研究施設ですか。確かに合理的ですね。でも大丈夫なんですか?モンスターにでも襲われたら折角集めた情報とか研究データとかパーになりますけど」
「それに関しては心配御無用ですね。ここ第一層は安全地帯なのでモンスターは湧きません。ダンジョン内なので絶対はありませんがここ以外でも過去安全地帯内にモンスターが湧いたことは一度もありませんので」
「へぇ…」
歩きながらぐるりと一周見渡せばモンスターの影は一つもないことに気づく。あるのは腰を折り曲げて草を毟ったり、木に生る実を摘む老若男女の影ばかりでファンタジーな格好をして剣を振り回す影もなかった。
「草むしりとか木の実狩りとかしているのは仮冒険者の人たちですか?」
「そうですね。草むしりではなく薬草採取ですが」
「すみません…」
「いえ。ここ渋谷ダンジョン第一層では
なるほど、住み分けだね。
「冒険者の方々に関してはこれといった制約はないので薬草採取や木の実狩りをすることは出来ますが仮冒険者の方々の役割を取ってはならないという暗黙の了解があるため基本は
「は、はい。気を付けます」
少しの質問でためになる情報が何倍にもなって返ってくることに驚いていると桜子さんは「着きましたよ」と静かにそう告げた。
「おぉ、ここが…」
目の前にあるのは何の変哲もない建物群。極限まで無駄を省いた上に伸びる長方形が少々、真四角の豆腐が少々。ついそれっぽい言葉を漏らしてしまったことが途端に恥ずかしくなってきた。
「美作さん行きますよ?」
長方形の建物の前で不思議そうにこちらを見てくる桜子さん。うん、可愛い。俺も冒険者として成功すれば彼女のような可憐な女性にちやほやされるのだろうか。
「少なくとも、特級にならなきゃだめだよなぁ…―――あっ、すみません!いま行きまーす!」
俺はすでに建物内に歩みを進めていた桜子さんのもとへ走っていった。
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