手渡たされた手紙:手

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 王宮に呼ばれた私は、うきうきした気分で手紙を書いていた。


 やっとこれで、あの男に復讐ができる。私を捨てた男を、悔しがらせる事ができる。


 きっとこれからは贅沢な生活ができるだろう。


 そうだ、もう少し手紙の内容を盛っておこう。


 どうせお姫様になるのは確定事項なのだから、少しくらい嘘をついても問題ないはずだ。


 何を書こうかな。


 ニヤニヤしながら筆を進めていく。


 とりあえず、この国の王子は私にメロメロだと書いておこう。


 これは、当然よね、


 私に美しさで敵う女はいない。

 この辺りでは、一番の美しさを持つ女なんだもの。


 だから、前回のようにはならないはずだ。


 あの、私を捨てた男の時のようには。


 きっと、私がどれだけ美しいか、あの愚かな王には、分からなかったのだろう。


 きっと愛なんて分からない、お子様だったなのよ。


 皆、踊り子である私が美しく舞っているだけで、惚れてくれるのに。


 あいつは、きっと子供だったから、愛という感情を抱けなかったのね。


 だから私との間で交わされていた婚約を破棄したの。


 かわいそうで愚かな王様。


 この手紙を読んで私の事を今さら欲しくなっても、もう遅いのに。


 そうだ。そんなおバカな王様にも理解できるように、もうちょっと分かりやすく書いてあげないとね。


 あれこれ、考えた末にその手紙を書きあげた私は、召使に手渡した。


 ちゃんとしっかり届けてね。


 事故でなくしたりしたら、承知しないんだから。












 俺は、町中を歩いていた時にその手紙を手渡しされた。


 俺は一国の王子である。


 だが民達の事を知るために、たまにお忍びで変装し、町を歩く事があった。


 今日はその日だ。


 変装は念入りに行っている。


 だから、大抵の人間は俺の変装に気づかずにスルーした。


 しかし、護衛の人間はなれたもので、すぐに気が付いてしまうのだ。


 今日は、護衛すらふりきって一人で歩いていたのだが、どうやらばれてしまったらしい。


 いつものように咎められたら面倒だ。


 そう思ったが、何かが違う。


 その護衛は少し様子がおかしかった。


 どこか気まずそうにしていたのだ。


「王宮の前にこんなものが落ちていたのですが、内容を確かめられますか?」


 その護衛は、しぶしぶと言った様子でその手紙を持っているようだ。

 本当は捨てたくてたまらない、と考えてそうな表情。


 しかし、よく見ればそれも当然だろうと思った。


 なぜならその封筒には、俺が婚約破棄した相手の名前が書いてあったのだから。


 仕方なしに俺は、手渡された手紙を読んだ。


 それは、つい最近婚約破棄した女からの手紙だった。







 数か月前。


 変装して町を巡り歩いていた時の事。


 一目ぼれした踊り子の女と仲良くなった俺は、その女を王宮へ招いた。


 そして様々な事を知って、彼女を気に入った俺は、婚約をかわしたのだ。


 それからは、花嫁修業をさせていたのだが、人が変わったように贅沢をするようになった。


 だから俺は、こんな人間とは一緒になれないと婚約を無しにしたのだが。


 女は、怒って俺に詰め寄ったのだ。


 俺の襟首をしめるような勢いで。


 だから、護衛に指示して王宮から追い出した。


 それきり、国内では姿を見なくなったが。


 どうやら手紙の内容では、隣国に行ったらしい。


 そこで、その国の王子と仲良くなり、贅沢な暮らしを送っているのだとか。


 将来を見据えたお付き合いとやらもしているらしい。

 

 だが、次第に化けの皮が剥がれるはずだ。


 おそらくヤツは、ただ贅沢な暮らしがしたいだけで、金と権力のある人間に取り入っているだけなのだから。


 隣国の王子は、質素な暮らしを好んでいる。

 おそらくまた、あの女は婚約破棄されるだろう。


 俺は冷ややかな目で、贅沢自慢をしているその手紙を読み終わった。


 そして、護衛に申し訳ない気持ちになりながら、再度それを手渡す。


「絶対に届けてほしい、焼却場へ。この内容が、人目につかないように頼むぞ」

「はい」


 嫌な事を思い出してしまった。


 だから、一刻も早く燃やして消し去り、その手紙を見なかったことにしたかった。


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手渡たされた手紙:手 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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