第28話『王都侵攻』
――当日。
魔族軍の隅に俺たちはいた。人以外の種族がひしめくこの場所では、俺たちの存在は浮いている。贔屓目にみても友好そうには見えないし、むしろ一触即発に近い状態とも言える。
人族の王都に攻め込む人族であるならしかない。種族の隔たりがありすぎて敵にしか見られていないのが現状だ。見渡す限り魔族軍の人員なわけで足元が見えないほどだ。その中で俺の周囲だけ空間ができてしまっている。
急に決まったことだし、彼らも俺たちの存在には浮き足立つことだろう。俺たち別働隊があえてここにいるのは人族の友軍がいることを知らしめるためでもあるらしい。敵味方を識別する魔法の腕章はつけているものの、知らなければそのことを理由に識別を無視する輩も当然現れてくる。そういった者たちは一定数いるため、少しでもその機会を減らすためにいた。
混乱を避けるため、隅にいるもののやはり目立つ。
俺たちは本体とは別に行動してよいことになっており、勇者を見つけ次第殲滅が任務だ。今回はリラの蘇生のために、勇者の魂を得なければならないため、俺にとっては非常にありがたい。魔族軍にとっても厄介な相手を元々友軍でもない奴がするのだから、ある意味厄介払いができるし自軍の損傷をその分抑えられるのだから願ったり叶ったりだ。
今回攻める王都は、俺にとっては何の縁もゆかりも無い地域だ。ゆえに遠慮なくできる。ただ混戦状態だと友軍からあえて攻撃を受ける可能性もあり、そこは気をつけている必要がある。今はまだ展開していない膨大にいる魔獣の影たちを召喚すれば、ある程度は防げると見ている。
「全軍侵攻開始!」
通達が届いた。いよいよだ。六花もリリーも俺と同じ覆面姿になり顔ばれを防いでいる。衣類や防具もすべて魔族軍と共通の物にしている。自前の方が遥かに性能はいいものの、生き残りがいた場合に変な遺恨を残すことになる。だから、正体を少しでも知られないことに力を注ぐのは、大いに効果があると思っている。
俺たちはこのまま召喚した影魔獣の背に乗り、王都に正面から突入する。影たちは基本的に疲労が存在しないので、常に全力疾走が維持できる。ゆえに早い。どうせ勇者と呼ばれる者たちは、重要な拠点にしかいないことが想定されるため、急ぎ王城へ向かう。
いくら正面からとはいえ、抵抗が強いかといったらそうでもない。この王都は東西南北の出入り口があり、そのすべてから攻められている。そのため、南側が正面だからといって手厚くできないでいた。
地上では四方八方から攻めらており、上空は多数の魔獣でひしめき合い空が黒ずむほどだ。ワイバーンがほとんどで地上は恐慌状態だ。
見たところ城壁は強固で三階建ての建物の高さほどある。地上を見下す形で兵士がおり皆一斉に弓や魔法を放ち応戦している。扉は間もなく破壊されそうなほど、魔族側が圧倒的な力で押し寄せる。
ようやく追いついた城壁ほどの高さを誇るゴーレムたちが拳をたったのひとふりで破壊してしまう。恐ろしいまでの物理的な破壊力だ。こうなると後はなだれ込むように王都内に魔族は我先にと王城目指して展開している。住民の避難が済んでいないのかあたりは夥しいほどの、肉塊が転がる。まさに地獄絵図だ。
俺は勇者と対峙するまで戦力は温存している。どのぐらいの強者なのかは正直わからない。
――光が空に走った。
同時に煙と各所で火の手が上がる。王城の方角からの破砕音が響く。どうやら魔族が、攻めたてているようだ。
俺たちは魔獣の背にまたがり、王城周辺を探す。勇者はどこだ? ヴィネからの事前の情報だとこの王都には十人お抱えの勇者がいるらしい。
どの者も魔法に長けていて手強いらしい。ただし人族の寿命から考えると若くして得た力のためか、傲慢さが目立つ。そこがつけ狙う隙になるとの話しだ。
見た目は俺と近い方面の顔つきだという。もし話しのとおりなら区別は付きやすい。
するとちょうど、一人に対して複数人の交戦がみつかる。魔族が三人と対する相手は、男の若い姿から恐らくは勇者だ。俺とそう変わらない年齢にも見える。横なぎの斬撃により、魔族三人の上半身と下半身が一瞬で両断される。
――強い。
手には片手剣と盾を持ち、全身フルプレートの鎧を纏う。兜はかぶらずずいぶんと余裕そうに見える。魔族が崩れ落ちるとこちらを見つけたのか、視線が突き刺さる。
「黒華!」
俺は即時放ち最大の火力がまずは通じるのか確認だ。同時に全影を出陣させ挑む。まずは本能で動く輩は総出で対応させる。
唸る大蛇のごとく勇者風情に迫る黒華は、盾により妨げられてしまう。どうやらあの盾には効かないようだ。迫る影の魔獣の攻撃でもこちら側が劣勢だ。しかもあの剣で両断された影たちは復帰しない。強制的に解放させているのか、影たちでは太刀打ちできないことを知る。
本能で動く影たちをほぼすべて消滅させてしまうと今度はこちらをみやる。俺は瞬時に魔剣を掲げ奴に迫る。急に動きが緩慢になりはじめた。あの時と同じだ。時間が穏やかに過ぎていく中で俺だけが普通に動ける時間だ。
この時間の中でも対応しようとしてくる勇者には驚かされる。馬鹿正直に上段から切り落としを入れようとすると、盾の角度を変えて受け流そうとしているのが見える。さらに俺は集中して、盾を袈裟斬りに腕ごと切り落とした。
この時、勇者の血に魔剣が触れたからか、剣からどこか歓喜が伝わってくる。俺は振り下ろした剣を握り変えしながら左上に斬り上げ鎧の上をなぞると、予想以上に刃が入り一気に切り裂く。
さらに切り上げた剣を力任せに頭上からまっすぐ下に切り落とすと、最も簡単に切り裂け身体を縦に両断した。魔剣の切れ味が急激に増してきたのである。
ここで時間が元に戻りはじめると、勇者は驚きの顔を見せたまま複数の傷を一瞬にして受け、最後に両断されてこときれる。
倒れた亡骸から、魂と思われる淡い光が現れたので、すかさず俺の手のひらにできた闇で吸い込み回収する。この魂でまずは一体目だ。なんとか倒せたものの損失も大きかった。本能で動く影たちは、今回の戦いでほぼ全滅したし、次の勇者には慎重に対応した方がよさそうだ。勇者の特徴なのか、それとも所持していた剣が原因なのかまだなんともいえない。初代の英雄に剣を下賜し、この場を急ぎ離脱する。
次に向かった先は、王城の正面だ。当然他の魔族はすでに突入しており、あたりには凄惨な状態に陥っている。彼ら魔族にとって人族は家畜ゆえに、たとえ赤ん坊でも躊躇なく抹殺する。人族も食料として家畜を同じようにしていることから、同じといえば同じなのかもしれない。力ある者が制圧与奪を握る。
すでに奥まで突入している者もいる様子がうかがる。あちらこちらで激しい喧騒が響く。すると不意に魔剣が反応し、俺の体を突然操作した。俺の手を使い剣の腹を頭上に掲げたのである。
今までなかったことだけに驚きはするものの、この動作が俺の命を救ったのも確かだ。頭上から来たのは、氷でできた槍が複数本回転しながら狙い撃ちされたものだった。
どこかから飛び降りてきたのか着弾と同時に正面数メートル先に勇者と思わしき女性の姿が見えた。この者も恐らくは対して年齢は変わらないのだろう。まるでこちら見て侮蔑するような嘲笑い方で、余裕そうな表情を見せる。
先と同様に再び黒華を放つ。すると少し驚きの表情を見せた後、別種の魔法で相殺しようと放ってきた。相手の魔法は光輝く魔法でまるで光と闇の戦いだ。俺の方は黒い大蛇のごとく迫り、相手は光の槍のように直線的に迫る。
無尽蔵な魔力を最大限こめて継続し続けると、相手は押し負けたのか上空に回避をした。この様子だと人により通じることもあるのかもしれない。ただ残念ながら”次回”というのも相手が同郷であろうとも慈悲はなく、蘇生の触媒がまた一つ増えた程度にしか感じない。
俺は再び時間が間延びしはじめたのを認識して上空にいる奴に、跳躍をかけて迫る。
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