第15話『墓あらしの末路』

「具体的な場所までは覚えていない?」


「はい。申し訳ございません。わかる範囲でお伝えすると、地下であることと光石で囲まれた場所でございます」


 さっそくお詫びからはじまった。影化して覚えていること自体がすごいと思うので、とくに気にも止めていなかった。わかったら得したなぐらいの程度だ。


 影たちはどんな時も耐えうる体の作りなため、生身である俺やリリーと六花のように肌で周りを感じることはない。そのためかうっかり気がつくのが遅れてしまった。


 夜も深く、俺の吐く息がやや白く色づく。リリーは比較的薄着のせいか、若干寒寒そうにしていたため、手持ちの大きめのコートをそっと羽織らせた。


「ジンさま! ありがとうございます」


 リリーのとても嬉しそうな笑顔を見るとどこかほっとした。


「いや、俺の方こそ気がつくのが遅れてすまん。これで少しでも暖をとってくれ」


「はい!」


 まだ秋でも冬でもさらには雨でも無いのに、少し息が白くなるのはこの場所の特徴かもしれない。幾分標高はあるためか、明け方に近くなるにつれて冷え込みはましてくる感覚がある。


 陰りがちな空は雲が覆っており、たまにしか月明かりが見えない。わずかな明かりの中で活動をしているものの、暗視スキルのおかげか夕暮れどきぐらいの明るさで、わりとよく見えていたりする。話を一旦元に戻そう。お詫びしたままカロが固まっていた。


「光石はどこにでもあるわけではないから、大きなヒントになりそうだな。そこまでわかれば大丈夫だ」


 光石は比較的珍しい。囲まれるほどなるなら十分な証拠になるうる。


「そう仰っていただき、恐悦至極でございます」


「後はその場所に、黄金神殿と黄金の魔法書があったのか……」


「はい。仰るとおりです。地下迷宮は世界のさまざまな場所にございます。恐らくはその中で、この近辺である可能性が高くございます」


「この近辺と言えるのは、何故なんだ?」


「転移でございます。私が知る範囲ですと転移魔法陣は通常、直上に転移いたします。移動した先が瀕死ながらもこの王国内だった記憶があります」


「なるほどな。今知った情報だけでも大きく前進したよ」


「そう仰っていただけるとは、恐悦至極にございます」


 ようやくわかると思ったものの、再び振り出しに戻った感じだ。ただヒントは得た。あとは地下迷宮の入り口を探して突入するのもいいし、このまま墓所巡りで蘇生魔法を探すのもいい。

 

 確実性が高いのは、地下迷宮の方だな。


 今回魔法スキルは得られなかったけど、代わりに魔剣を入手できた。言葉どおりなら、かなり期待できる武器だ。残念な点は、俺自身の荷物はしまえないものの、影たちは個々のアイテムを少しばかり影の中にしまえる。そのことがわかったのは大きい。


「ひとつ、気になることがあるんだけどな……」


「なんでございましょう」


「英雄ベルカルロは男と聞いていたけど、偽装魔法か?」


「はい。仰る通りでございます。私は女であり、ダークエルフ種族でございます。男の姿の方が活動しやすかったため公の場では、姿形は男性のままでおりました。この黄金神殿のことや黄金の魔法書は、グラッド様以外にはふせておりました」


「なぜと聞いてもよいか?」


「はい。グラッド様からの勅命でもあり、黄金族関連は秘匿しております。私が男性の別種族に偽装魔法をかけていたのは、純粋にふたつの顔をもつことで、活動がしやすいに他なりません」


「そういうことか……。最後の拷問で死んだ後は、初代には偽装が発覚したんじゃないか?」


「日数限定でなら、隠し通せた可能性がございます。死亡したのち三日の間は、維持できる魔法でございます」


「すごいな! 今も姿を変えられるのか?」


「はい。可能でございます」


「わかった。今のダークエルフのままでいい。美しさは大事だ」


「はっ! 恐悦至極にございます。お慕い申しております」


「ベルカルロもいい名だ。呼びやすさでカロと呼んでもいいか?」


「愛称をつけていただけるなど、ありがたき幸せに存じます」


「それでは、カロよろしくな」


「はい。主殿」


 目を潤ませてこちらを見上げる姿は、憧れと陶酔しきった感情を混ぜ合わせたようにも見えた。愛も憎しみも表裏一体なものであるから、慎重にしたいとも思う瞬間だった。


 藍色に鉄を混ぜたような藍鉄色の肌に、恐らくは背中まである長い銀髪のポニーテールはどれをとってみても美しいしか言葉の表現を作れない。長いまつ毛に覆われた梅紫色の虹彩は、宝石のような美しさに尽きる。恐らくはリラがいたら、機嫌を悪くさせそうな態度で俺はいるのかもしれない。


 ――三日月の光がさしてきた。


 今は夜のとばりも降りて、すっかり真っ暗である。俺たちはこのまま三人目の英雄かもしくは、国王のいる墓所に向けて北上をはじめた。


 今回三人目の英雄の話は、誰からも出ていないし国王の話も同様だ。


 先までは、なんらかしらの繋がりを示唆されながら続いていた。ところが今回向かう先については、誰からも関係性を示唆されていないし、話題にも上がらない。なんだか奇妙なものだとどこか感じていた。


 しばらくすると今までの距離よりは体感的にかなり短く、早くも鉄格子のような柵が見えてきた。今までと大きく異なるのは、たどり着くまでの距離と墓標の小ささだ。この大きさでは、町外れの墓所となんら変わりない。俺とリリーの二人で警戒しながら、ゆっくりと足を踏み入れた。六花はこの時、マフラー状態お休み中である。


 ……なんだ? 何かが変だ。


 すると急な濃霧がたち込めはじめる。明け方でなく夜間に起きる濃霧は意図的な物を感じる。するとリリーがふらつきながら、体制を崩して倒れそうになる。


「大丈夫か?」


「はい。申し訳……ございま……せん。何か、急……な……睡……魔が……」


 そのままもたれかかるように寝てしまった。まるで、今までそこにいたかのように急に複数の人の気配がすると、正面にいたのは驚くべき人物だ。


「アーテなのか?」


「あら? もしかして、以前にもあったことがあったかしら?」


 以前見かけた時と着ている衣類が異なるだけで、まったくの同一人物に見えた。すると覆面をした黒装束の集団に囲まれてしまう。こうなると、多勢に無勢だ。リリーを抱えたままでは太刀打ちができない。


「チッ……」


「観念することね。奇妙な墓荒らしさん」


「奇妙な?」


「三代目グラッド国王の墓荒らしの罪は重いわ。観念することね」


 こいつの正体はともかく、グラッドのところしか知らない様子だ。他の墓所については触れていない。気がついていないのか、確信がもてないでいるのはよしとしよう。ついでに、先ほど試しに分散して影たちに俺の荷物を一個ずつ持たせたのは、功を奏した。魔剣も金貨も魔法袋もすべて安全だ。


 今一斉に影たちに襲撃させるのも方法ではある。ただ、人を抱えながらこの近い立ち位置での戦闘は皆無だったため、言われるまま素直に従った。まだ機会はあるだろうと、考えながら様子を伺う。


 俺とリリーは、手枷と腰なわをつけられてどこかに連行される。気になるのは、アーテだ。はじめてみるような目つきをしていた。本当に俺のことを知らない様子だ。


 そうなるとこの目の前にいる人物は”誰なのか”だ。残滓が魔力の塊で体を成している可能性もある。残滓自体が自身を残滓だと気がついていないこともある。他に考えられる要素は、ホムンクルスだ。いずれの場合でも、俺のことを今回はじめて知る様子なのは都合がいい。過去のさまざまな状況を見るに、どれも黄金の魔法書を求めていることからこの女も例外なく同じだろう。


 ここはどこだろうか、歩いて行った先は簡易的なテントのある場所だ。着くとすぐに、対面となる椅子に座らされて向き合う。


「……」


「さて、答えてもらうわ。あなたはあの場所で墓を掘り返して何をしようとしていたの?」


「……」


「時間はそれほどないわ。あなたたちの処刑はすぐに決まったの。これから移動した先でも同じ答えなら、その場所が人生の執着点ね」

 

「……」


「……そう。わかったわ。楽に処刑する気はないの。ゆっくり絶望を味わって死んでもらうから」


「……」


 俺は変わらず無言を貫いた。


 アーテに酷似した女は、恍惚とした表情でニヤつく。ある意味異常者だ。


 その後一時的に付近の木に縛り付けられて、何の意図か明け方をまつ。朝日が射してくると、縄を解かれ複数人の黒装束と共に連れ出されて、向かった先は一瞬だ。いつの間にかはじまできたのか、そこは断崖絶壁といえる大地の裂け目にやってきた。


 岩の裂け目のような亀裂が大地を割く。唐突に地面が割れたようにすら見える場所だ。どうやらここまでは、転移魔法のようだ。移動した先にいたアーテは、俺とリリーに告げる。


「安心して。突き落として即死なんて"勿体ない"ことはしないの」


 なんだ――。今なんと言った。”勿体ない”とは、異常すぎる。


「――どうしたい?」


「あら? しゃべれるじゃない? でも残念ね。最後のおしゃべりになりそうよ」


「……」


「あら?  まただんまり? いいわ。お姉さんが特別に教えてあげる」


「殺せ。殺したいならさっさとな」


「大丈夫よ、焦らないで。今から”奈落”の谷底に突き落とすの、あなたたちをね。そこで、落下速度を徒歩程度に落とす速度減少魔法をかけてあげるわ。素敵でしょ?」


「何が望みだ?」


「もうね、命乞いなんてつまらないの。魔獣の巣窟に落ちながら生きたままゆっくり食べられちゃうの。最高よね!」


「狂っているな……」


「あら? 褒め言葉よ? ありがとう。じゃあかけるね」


 銀色の粒子が俺とリリーの体にまとわりつく。すると、周りにいた黒装束たちは何故か一人分のテーブルと椅子、そして食器を用意しはじめた。何をしようというのか……。


「俺たちを食べる気か?」


「あら?  そんな楽しみを半減させることはしないわ。五体満足の状態で魔獣に食われなきゃ意味ないでしょ?」


 アーテの恍惚した表情は止まらない。


「ここから落として魔獣どもにひけらかして、誘き寄せ食わせるわけだな」


「よくわかっているじゃない。でもその内容だとまだ足りないわ」


「なんだ?」


「あなたちが必死に抵抗して、魔獣に食われるところを見ながら食事するの。すんごくおいしくなるわ。今からとても楽しみなのよね」


「悪趣味め……」


「うふふ。ありがと。あなたたちが食われるをこの”目”が見て私に伝えてくれるのよ。この”見通しの鏡”を使ってね。素敵でしょ? ここにいながらゆっくり観察ができるわ」


 またしても恍惚した表情をさせている。狂った奴だ。説明のやり取りをしているうちに準備が完了したのか、崖の際につれられる。


「いい死に方できるといいな」


「あら? ありがと。あなたたちはおもしろいわ。まるで恐れていないのね」


「そうだな。お前たちの思うようにはさせないさ。リリー!」


「はい!」


 リリーに目くばせをすると察したかのようで、二人で底の闇に向けて駆け出す。


「なんですって!」


 アーテの一瞬慌てている姿が視界に入る。まだ準備が必要だったのかもしれないものの知る由もない。俺たちは自らのタイミングで飛び込んだ。そして即座に心のうちで唱える”幻影!”と。


 するとゆっくりと体は、落下をしはじめた。

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