第13話『三代目』
「また色違いか……」
色違いの理由はわからない。ただ今回この三代目が”黄金の魔法書”のキーマンだ。そのためか、いつもと重要度が違い少し緊張をする。固く閉じられた蓋をこじ開けると、中にある白骨は酷い状態で収まっていた。部分的に押しつぶした感じになっている。素人目で見てもどの部位の骨かはわからない物の、相当酷い死に方かもしれない。
俺は腹を決めて、力を決行した。
「――影化」
視界が暗転して、光景が変わった。一体どういうことだ。広がる光景はどこかの部屋で薄暗く血生臭い。両手足と首には鎖で繋がれていて身動きが取れない状態だ。辺りは見渡せないので広さはハッキリとはわからないものの二十畳程度の広さだろう。
追随体験だと今当人の考えていることや五感を通じて味わったことすべてにおいて、同じ体験を同時に共有される。しかも相手の動きに合わせてのため、俺はただ受け入れるしかないという地獄を味わう。どういうわけか毎回、死に際の数十分程度前からその体験が始まるのだ。
三代目はこんな状況だというのに達観している。もう助からないことを理解しているし、逃げようともしない。唯一の気がかりなことは、今までの研究資料がどのような扱いになるか心配なことぐらいだ。
ここでふと、足音がした方に振り向くと、俺にとっては驚くべき人物がいた。初代とライゼンである。誰かが狙っていたこと自体はわかっていたので、狙われること自体は驚きはしない。問題は、今が何年かだ。どう見ても姿形が変わらない。老化をしていないのだ。この三代目がいる時代に現れることを普通に考えたら、それなりに見た目上年齢を重ねていないとおかしい。さらに俺の知る初代は暗殺されたのだ。あれはいつのことだったのだろうか、混乱してきた。
もしかして人族のように見えて、違う種族なのかもしれない。ところが三代目の記憶からは、その答えはなかった。顔の筋肉を動かした感じだとただただ、侮蔑が入り混じる視線を初代のアーテとライゼンに向けていた。
「僕はね。あの魔法書の価値を見出せない人物には、何も話す気はないよ。殺すなら殺せ」
三代目はすでに覚悟を決めていたのか淡々としている。
「あらあら、うふふ。まだまだ子供ね。私以外に見出した人物はいたかしら?」
「言葉を選び間違えているね。あなたはただの私利私欲だけよ」
初代のアーテは冷ややかな目を三代目に向ける。ライゼンに目くばせをすると、子どもの頭ほどの大きさをもつ、鉄球のついた得物を手からぶら下げていた。
「そう……。グラッド、ねえあなた。このまま人の寿命を超えて研究したいでしょ?」
一瞬、三代目国王グラッドの心は揺れ動くのがわかる。それでも今は死以外の選択肢はないと考えている。さすが腹の括り方は半端ない。しかも自身が亡くなっても四代目の候補はすでにいて、何の心配もしていない。
さらに王族だけにある救難信号を発していることで、間もなくこの場所に騎士団がたどり着くこともわかっている。ただ、それでも自身の死は免れないと思っていて、この二人を捕まえるためだけに信号を発しただけだった。
そして三代目は知っていた。青い薔薇の信徒たちが三代目の研究を狙って、支援していたことを。さらに青い薔薇の信徒たちは、初代が三代目の研究を奪おうとしていたことを知って、看過できず暗殺をするであろうことも。そう遠くない未来に、初代は逃れられない死を味わうだろうと内心ほくそ笑む。
「……殺せ。もう話ことは何もない」
「そう……。なら、ゆっくりと望みが叶えられるか試してみようかしら?」
初代国王のアーテは、ライゼンに目くばせをすると左腕の肘から下は鉄球を振り下げ、押しつぶした。あまりの痛さに三代目国王のグラッドと俺も絶叫をあげる。続けて右腕も同じく潰されうめき声しかでない。さらに両足も潰されてしまい、痛みで意識が飛びそうなところを魔法で巧みに起こしてくる。
「……」
「あら? もう何もいえないのかしら? 再生!」
「グァァアア――」
再生時にわざと異なる痛みを与えて行っているのだろう。痛みに反して、今潰された四箇所が元に戻っていく。すると見下した目のアーテがグライドと俺に囁く。
「どうかしら? 痛いのは嫌よね? しゃべる方が楽しいはずよ?」
「……」
「強情ね……」
再び鉄球が振り下ろされて、四肢を潰していく。そして再生と繰り返し行われた。あまりにの苦痛にグランドと俺は狂いそうになる物のグランドの精神力でどうにか持ち堪えている。俺ならもう懇願していると思う。グランドの精神力は、この追随体験で俺を励ましてくれている気がした。
例え俺がここで発狂しても、過去の記憶を見ているにすぎないため変えることはできない。できるのは過去ではなく目覚めた後の今を変えて、つながる未来を変えていくことだ。
最終的には、騎士団が乗り込んでくる直前に頭を潰されてようやく終わりを迎えた。終わりとわかったのは、鉄級が目前に迫り一瞬の痛覚を味わった後、意識が暗転したからだ。
「戻ってきたか……」
俺は脂汗をかき、息はあらかった。それでも両足でたてていることから、まだ何とか耐えられたのだろう。すでに二代目の時と同じく三代目グラッドは、跪き首を垂れていた。男だと思っていたらどうやら女性のようだ。
「待たせたな……。お前が、三代目国王グラッドか? 面をあげよ」
「はっ! 仰せのとおりでございます」
髪型は、白髪の肩までかかるボブ。綺麗な顔立ちをしており、一見美の女王かと思うほど。スタイルは抜群で普通の男なら、目が離せなくなる存在だ。ところが見かけと裏腹に研究に没頭する黄金族オタクときた。
毎回思うことが、意識のある者はリラ以外にこうして面と向かうと畏怖されることだ。創造主に対しての敬意だろうかとも考えが過ぎる。一部例外として、初代国王のアーテはどこか上から目線ではあったな……。
「お前を”影”として蘇生した。目的は黄金の魔法書を探している。知っていることをすべて知りたい」
「承知しました。まずは黄金魔法の前に、黄金族の正体を知る必要があります」
ずいぶんともったいぶるようにいう。何か気がかりでもあるのだろうか。
「彼らの正体は異界人です。しかもかなり魔法が優秀です。女神より授かったと言われる特殊な力を持っており、何かを画策していたことがうかがい知れます」
「異界人か……」
勇者とはまた異なる異界人。というよりは、召喚者が不明な異界人か。
「はい。彼らはいつどこから、何のためにきたのか不明です。年齢も性別もばらばらだとわかっています」
「人数や行方はわかっているのか?」
「はい。名簿のような者が作られており、そこに未知の言語で名前の一覧があると言われています。人数もその書物を見れば、自ずとわかるとのことです。これらは言い伝えなので実際に見てみないと判別ができかねます。ただ複数の文献でも同じことが言われているので、角度は高いかと存じます」
「行方は?」
「はい。消息はつかめておりません。忽然と消えたとも言われておりますし、一人だけ幾年も目撃されたとも聞きます。共通していることは大部分が消えたことです」
俺の場合とはかなり違う様子がうかがえる。かつて神話の時代に数十以上の規模で召喚。目的は定かでなく、何かを成し遂げた記録もない。そして何が起きたのか忽然と姿を消す。
一体何が起きたのか……。
可能性としては帰れることや方法を知り皆で帰り、一部の者だけは残ったと考えるのが一番わかりやすい。または、最悪の自体としてなんらかしらの要因と問題があり絶滅したか。それでも黄金の魔法書が残る以上、一部の者だけは残っていた気がする。
「彼らの使う言語または文字について書き写した物はないのか?」
「はい。手元にはもうありません。恐らくは青い薔薇の組織の人らがすべて回収していた可能性は高いです。彼らが私の研究に支援や援助をしてくれたので、当然の帰結かもしれません」
「そうか何か残した文字がわかれば、ヒントが掴めるんだけどな……」
「あっ! 記憶に残る物が一つあります。今地面に書きます。たしかこのような文字だったかと……」
するとグラッドは近くの小石を使い地面に何か書きはじめた。
『女神の……運命に抗え』
「この文字は……」
俺は一瞬武者振るいをしてしまった。この文字はどうみても日本語だからだ。しかも何かのメッセージである。この複雑な文字をよく覚えていた物だと、グラッドの優秀さを物語らせる。
「はい。途中は失念してしまい申し訳ございません。この文字だけははっきりと覚えております。ただ、どこで模写した物かは定かでござません」
「すごいぞ、グラッド。この複雑な文字を覚えているだけでなく伝えてくれるとは……」
どう考えても何かのメッセージだ。推察するなら、間違いなく女神と何かあった。ところが力が巨大すぎるゆえ、どうにもならなかった。それでも挫けず運命に抗えといいたいのかもしれない。元々リラを蘇生するために探しはじめた黄金の魔法書だけど、何かがありそうだ。
とくに”日本人”にしかわからないことが記されている。つまり彼らからすると遠い未来にまた日本人がくることを予見して残してくれているかもしれない。にわかには信じがたいようなことが起きて、今につながるのかもしれない。
「勿体なきお言葉でございます。ここまでが黄金族に関わる主たる内容です。肝心な黄金の魔法書の所在は、英雄ベルカルロが知ります」
「そうか。それならグラッドのように影化蘇生をして話を聞いてみるか」
「はい。あの者なら尊きお方の意にそうよう、忠義を持って尽くすかと存じます」
「だといいんだけどな……」
「私が主であるうちは、非常に忠義を尽くしてくれました。あの者の報告をかいつまんで先にお伝えしますと、金色の神殿に黄金の魔法書が安置されております。かつて探索中に偶然神殿にたどり着くと、黄金で囲まれた神殿内にて黄金の台座に乗せられた黄金の魔法書を見たといいます。持ち帰られなかったのは、触れることすらできなかったとのことです。おそらく資格がないためでありましょう」
「その資格とは何かわかるか?」
「恐らく魔力の量だと考えております。仮に量という観点で見た場合は、主人殿でしたらなんら心配ない量かと存じます」
一定量の魔力量がないと弾かれる仕組みのようだ。俺ぐらいあれば恐らくは問題ないとの見解だ。今の話を聞く限り、俺ぐらいの魔力量はかつて黄金族が地上を支配していた時代には、多数いたことが考えられる。
それにしても黄金族と言われる異界人に一体何が起きたのか。滅びたのかそれともこの地を去ったのかは、まだわからない謎だ。
大雑把には、黄金の魔法書について見えてきた。恐らくは日本人が利用していたことは、残した文字から間違いない。魔力量が一定以上必要な条件もわかった。黄金魔法は日本人が女神から得た可能性が高いことは気になる。そしてほぼ全員消えてしまい一部の日本人はここに乗ったこと。最後に、何かメッセージを残している可能性が高いことだ。
黄金の魔法書自体については大きく前進した物の、何か別の力が働く物を探り当てるような気がしてならない。
「ああ。ありがとう大分理解できたよ。グラッドには引き続き専任の研究者として任命する。よいな?」
「はっ! ありがたき幸せでございます。主人殿」
「おっ……。この魔法は……」
今回はやや遅れて魔法スキルを得られた。その魔法スキルは”観察者”。すべての事象を知り、深く情報を調べられる。ただし普段からさまざまな物を観察していることで、スキルが発動しやすくなる。たしかにこの魔法は、三代目グラッドに相応しい魔法スキルだ。”観察者”の魔法を使い深く調べ続けていたとのことだ。
俺の魔力量なら制限がないのに等しい。つまりは何度でも連続して”観察者”を利用できる。その分精度が上がる。いわゆる力でゴリ押しする感覚に見えた。
俺たちは、一旦次に二人目ところへ行く前にここで休憩をとる。予定としては昼過ぎぐらいにここを発ち、次へ向かう予定だ。六花とリリーを休ませたいのと俺も多少は休もう。護衛は影の軍団たちに任せて俺たちはテントをはり、しばし休憩をとる。
今度の目指す場所は”英雄ベルカルロ”のいる墓所だ。
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